擬制的親族関係の一種。すなわち他人との間に,あたかも実の〈きょうだい(兄弟姉妹)〉のような関係を結び,親密な交際を行う慣習のこと,および当人に対する呼称。分とは,仮に定めた身分を意味する。呼称としては,義兄弟,宿兄弟,参宮兄弟,兄弟契り,兄弟成り,ケヤク,ネンアイなどがある。現代ではヤクザや,芸能界,スポーツ界のそれが比較的よく知られているが,かつては一般民衆の間でも広く行われていた。まれには青森県津軽地方のケヤクのように,今日もなおこうした慣習を続けている地方もある。兄弟分と親友とは類似しているが,前者の場合は兄弟杯を交わすなどの契約の儀式をともなうところに特色がある。ケヤクの語も契約にちなむとみられる。概して,男どうし一対の型が多いが,複数の例もあり,また女性どうしの場合もある。山形県温海町のケヤキキョウダイ(契約姉妹)はとくに著名である。鹿児島県口之島では,7歳になると,その子の好きな人にワカシ(兄弟分)を依頼したというが,幼年期の兄弟分はまれである。中世社会における乳母子(めのとご)どうしの間柄を兄弟分とみなす見解もあるが,それは義理のキョウダイとしてはともかく,慣習としての兄弟分には当たらないであろう。契約時期は一般に青年期であり,親分子分関係を結ぶことで子分どうしが兄弟分となったり,若者組や娘組または寝宿へ加入することで,そこにおける親友の間で兄弟分が成立する場合が多い。宿兄弟がその一例である。参宮兄弟は,伊勢参りの同行者間で成立する兄弟分である。兄弟分は吉凶時の交際や労働の互助を行い,交際が家族に及ぶ例もある。単なる個人的な親交にとどまらず,親類づきあいを期待する例が少なくないことは,社会構造上注目される。なお,同年齢者どうしの場合はともかく,少しでも年齢差があるときは,そこに兄分と弟分,姉分と妹分の上下の立場が意識され,その関係は対等ではない。
執筆者:平山 和彦
中国では,宗法関係の崩れた戦国時代ごろから行われたようであるが,武人や庶民の力の高まった北朝末,隋・唐時代以後とくに盛行し,〈結びて兄弟となる〉〈約して兄弟となる〉というような表現で史書に多くの例がある。盟約の底に流れるものは任俠の精神で,これによって運命を共にすることを誓う。その儀式は,榻(寝台)を共にする,血をすすりあうなどさまざまで,文書(兄弟契)を取り交わすこともある。義兄弟関係が3人以上に及ぶこともしばしばで,趙匡胤(ちようきよういん)は10人の〈義社兄弟〉を基礎に宋朝を興した。義兄弟結合はしばしば秘密結社の組織原理となり,《三国志演義》(桃園結義)や《水滸伝》などのモティーフにもなった。女性間に義姉妹関係が結ばれることもあり,また漢と匈奴の関係におけるように,国家レベルで結ばれて和親関係を保証した例も少なくない。
執筆者:谷川 道雄
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実の兄弟姉妹でない者が約束を交わし、兄弟や姉妹、まれに兄妹か姉弟の関係になぞらえる慣行。これら4通りの組合せをいずれも「きょうだいぶん」とよび、兄弟分の約束を「兄弟契(ちぎ)り」「兄弟成り」などという。義兄弟も兄弟分と類似するが、婚姻や養子縁組によって成立する義理の兄弟姉妹は除かれる。兄弟分の型には大別して2種あり、第一は同じ親方、親分をいただく子方、子分同士が、年齢の上下や親方取りの新旧によって兄弟分となるもの、第二は親方取りがみられず、親友の関係を一歩進めて兄弟分の盟約を結ぶものである。島根県隠岐(おき)島ではもと男女とも成年時に仮親をとる習慣があり、そのとき鉄漿親(かなおや)とよばれる親方と鉄漿子(かなこ)(男)あるいは鉄漿娘(かなむすめ)(女)とよばれる子方の間に杯(さかずき)が交わされ、同時に子方同士も兄弟分ないし姉妹分の杯をしたというのは、前述の第一の型である。若者宿、寝宿の友だちを宿子、宿朋輩(ほうばい)というほか、宿兄弟とよぶ所がある。これも同じ宿親のもとの兄弟分という意識に基づくものである。長野県北安曇(きたあずみ)郡では職人の新入りは親方から杯をもらうとともに、兄弟子(あにでし)と兄弟杯を交わしたという。職人や芸人、その他特殊な仲間でも、同じ親方、師匠(ししょう)につく者たちの間で兄弟分となることは最近でも珍しくない。これに対し、共通の親方がなく、親友の関係から進められる第二の型の兄弟分も各地で認められる。青森県津軽地方ではとくにこの慣行が盛んで、兄弟分祝いをして2人1組で、場合によっては数人の集団で同時に兄弟分となった。山形県鶴岡(つるおか)市大岩川(おおいわがわ)の浜中(はまなか)にみられる女のケヤキキョウダイ、伊豆神津(こうづ)島における同性間あるいは異性間のキョウダイブンなどもこの型の慣行である。兄弟分の交際は一生続くという例もあるが、多くは結婚ぐらいまでは緊密なのに、その後は弛緩(しかん)していくようである。また親方・子方の関係が家族全体に拡張されて「家」同士にまで昇華されるのに対し、兄弟分のほうは個人関係にとどまるのが一般である。
[竹田 旦]
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