兄弟分(読み)キョウダイブン

デジタル大辞泉 「兄弟分」の意味・読み・例文・類語

きょうだい‐ぶん〔キヤウダイ‐〕【兄弟分】

他人どうしではあるが、仮に兄弟の縁を結んだ者。また、その間柄。義兄弟。「兄弟分の杯を交わす」
兄弟のように親しい仲間。

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精選版 日本国語大辞典 「兄弟分」の意味・読み・例文・類語

きょうだい‐ぶんキャウダイ‥【兄弟分】

  1. 〘 名詞 〙 他人同士が、考え方や息などが合って兄弟同様の間柄にあること。また、その人。義兄弟。きょうだい。
    1. [初出の実例]「此の左内とをのれと兄弟分が口おしい」(出典:浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)夢路のこま)

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改訂新版 世界大百科事典 「兄弟分」の意味・わかりやすい解説

兄弟分 (きょうだいぶん)

擬制的親族関係の一種。すなわち他人との間に,あたかも実の〈きょうだい兄弟姉妹)〉のような関係を結び,親密な交際を行う慣習のこと,および当人に対する呼称。分とは,仮に定めた身分を意味する。呼称としては,義兄弟,宿兄弟,参宮兄弟,兄弟契り,兄弟成り,ケヤク,ネンアイなどがある。現代ではヤクザや,芸能界,スポーツ界のそれが比較的よく知られているが,かつては一般民衆の間でも広く行われていた。まれには青森県津軽地方のケヤクのように,今日もなおこうした慣習を続けている地方もある。兄弟分と親友とは類似しているが,前者の場合は兄弟杯を交わすなどの契約の儀式をともなうところに特色がある。ケヤクの語も契約にちなむとみられる。概して,男どうし一対の型が多いが,複数の例もあり,また女性どうしの場合もある。山形県温海町のケヤキキョウダイ(契約姉妹)はとくに著名である。鹿児島県口之島では,7歳になると,その子の好きな人にワカシ(兄弟分)を依頼したというが,幼年期の兄弟分はまれである。中世社会における乳母子(めのとご)どうしの間柄を兄弟分とみなす見解もあるが,それは義理のキョウダイとしてはともかく,慣習としての兄弟分には当たらないであろう。契約時期は一般に青年期であり,親分子分関係を結ぶことで子分どうしが兄弟分となったり,若者組や娘組または寝宿へ加入することで,そこにおける親友の間で兄弟分が成立する場合が多い。宿兄弟がその一例である。参宮兄弟は,伊勢参りの同行者間で成立する兄弟分である。兄弟分は吉凶時の交際や労働の互助を行い,交際が家族に及ぶ例もある。単なる個人的な親交にとどまらず,親類づきあいを期待する例が少なくないことは,社会構造上注目される。なお,同年齢者どうしの場合はともかく,少しでも年齢差があるときは,そこに兄分と弟分,姉分と妹分の上下の立場が意識され,その関係は対等ではない。
執筆者:

中国では,宗法関係の崩れた戦国時代ごろから行われたようであるが,武人や庶民の力の高まった北朝末,隋・唐時代以後とくに盛行し,〈結びて兄弟となる〉〈約して兄弟となる〉というような表現で史書に多くの例がある。盟約の底に流れるものは任俠の精神で,これによって運命を共にすることを誓う。その儀式は,榻(寝台)を共にする,血をすすりあうなどさまざまで,文書(兄弟契)を取り交わすこともある。義兄弟関係が3人以上に及ぶこともしばしばで,趙匡胤(ちようきよういん)は10人の〈義社兄弟〉を基礎に宋朝を興した。義兄弟結合はしばしば秘密結社の組織原理となり,《三国志演義》(桃園結義)や《水滸伝》などのモティーフにもなった。女性間に義姉妹関係が結ばれることもあり,また漢と匈奴の関係におけるように,国家レベルで結ばれて和親関係を保証した例も少なくない。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「兄弟分」の意味・わかりやすい解説

兄弟分
きょうだいぶん

実の兄弟姉妹でない者が約束を交わし、兄弟や姉妹、まれに兄妹か姉弟の関係になぞらえる慣行。これら4通りの組合せをいずれも「きょうだいぶん」とよび、兄弟分の約束を「兄弟契(ちぎ)り」「兄弟成り」などという。義兄弟も兄弟分と類似するが、婚姻養子縁組によって成立する義理の兄弟姉妹は除かれる。兄弟分の型には大別して2種あり、第一は同じ親方、親分をいただく子方、子分同士が、年齢の上下や親方取りの新旧によって兄弟分となるもの、第二は親方取りがみられず、親友の関係を一歩進めて兄弟分の盟約を結ぶものである。島根県隠岐(おき)島ではもと男女とも成年時に仮親をとる習慣があり、そのとき鉄漿親(かなおや)とよばれる親方と鉄漿子(かなこ)(男)あるいは鉄漿娘(かなむすめ)(女)とよばれる子方の間に杯(さかずき)が交わされ、同時に子方同士も兄弟分ないし姉妹分の杯をしたというのは、前述の第一の型である。若者宿、寝宿の友だちを宿子、宿朋輩(ほうばい)というほか、宿兄弟とよぶ所がある。これも同じ宿親のもとの兄弟分という意識に基づくものである。長野県北安曇(きたあずみ)郡では職人の新入りは親方から杯をもらうとともに、兄弟子(あにでし)と兄弟杯を交わしたという。職人や芸人、その他特殊な仲間でも、同じ親方、師匠(ししょう)につく者たちの間で兄弟分となることは最近でも珍しくない。これに対し、共通の親方がなく、親友の関係から進められる第二の型の兄弟分も各地で認められる。青森県津軽地方ではとくにこの慣行が盛んで、兄弟分祝いをして2人1組で、場合によっては数人の集団で同時に兄弟分となった。山形県鶴岡(つるおか)市大岩川(おおいわがわ)の浜中(はまなか)にみられる女のケヤキキョウダイ、伊豆神津(こうづ)島における同性間あるいは異性間のキョウダイブンなどもこの型の慣行である。兄弟分の交際は一生続くという例もあるが、多くは結婚ぐらいまでは緊密なのに、その後は弛緩(しかん)していくようである。また親方・子方の関係が家族全体に拡張されて「家」同士にまで昇華されるのに対し、兄弟分のほうは個人関係にとどまるのが一般である。

[竹田 旦]

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百科事典マイペディア 「兄弟分」の意味・わかりやすい解説

兄弟分【きょうだいぶん】

肉親でない者が兄弟の交わりを約束したもの。同じ親方に属する子方同士(親方・子方)が年齢の上下や親方取りの新旧で兄,弟の関係を契る場合と,共通の親方がなくとも,親交を高めることで兄弟分の関係を築くことがある。日本では職人の徒弟,若者組の仲間,香具師(やし)や博徒の仲間に行われ,東北では伊勢参り兄弟もある。兄弟杯などの儀礼をもって誓約することが多い。中国でも,《三国演義》の劉備,関羽,張飛の例のように,義兄弟関係の盟約をとりむすぶ習慣がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「兄弟分」の意味・わかりやすい解説

兄弟分
きょうだいぶん

実の兄弟姉妹関係にないものが結ぶ,兄弟姉妹関係に類似した関係。儀礼的親族関係の一つであり,儀礼的親子関係と同様になんらかの儀礼を経て成立する。兄弟分には同じ儀礼的親をもつ子の間で結ばれる関係と,当人同士が兄弟分の関係を取結ぶものとがある。前者は儀礼的親子関係を前提とし,その締結と同時に,すでに儀礼的子となっている者の間で兄弟姉妹の契りを結ぶ。兄弟分は協力して親の仕事に奉仕したり,ともに親に招かれてもてなしを受ける。後者の例としては山形県のケヤキキョウダイや福島県会津のツクリキョウダイ,同行キョウダイが知られている。ケヤキキョウダイは子供のときに近所の女性間で結ばれるもの。ツクリキョウダイは子供の結婚にあたって兄弟姉妹のいない親が,儀礼的な兄弟姉妹関係を新たに設定するもので,子供にとってこの関係は叔父叔母を新しく創出することになる。同行キョウダイは社寺参詣に同行した者が儀礼的な兄弟姉妹関係を取結ぶものである。

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