女子の成年時にたてる仮親で、男子の元服(げんぷく)親、烏帽子(えぼし)親などにあたる。カナオヤとなまる所もある。鉄漿付け親、羽根(はね)親、楊枝(ようじ)親、筆親などともいう。子のほうは鉄漿子、鉄漿付け子、筆子、歯黒(はぐろ)子など。女子は成年に達したしるしに鉄漿をつけ、歯を黒く染める習わしが広くみられた。古釘(ふるくぎ)などの鉄くずを焼いて濃い茶の中に入れ、酒や飴(あめ)を加えてつくった鉄漿水と、媒染剤として五倍子(ふし)の粉とをかわるがわる筆や楊枝につけて歯を染めた。初めはむずかしいので叔母や親しい年配の女性に頼んでつけてもらった。これが鉄漿親である。「十三がね」といい、女子の成年は13歳ごろであったが、しだいに時期が遅れ、やがて婚姻に際してつけるようになった。仲人(なこうど)が鉄漿親を兼ねる例もあった。
[竹田 旦]
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…ムラ人が親分を得てその子分となる機会は,人生の通過儀礼の節目ごとに見いだされえた。出生時に頼む〈取上親〉〈名付親〉,また病弱な子を儀礼上いったん捨て子する形をとり,あらかじめ頼んでおいた人に〈拾い親〉になってもらうことによって健康な子になると考える風習もあったが,最も一般的には,成人するとき男は烏帽子親(えぼしおや),女は鉄漿親(かねおや)を頼み,また結婚するときに仲人親を頼むというように,仮親に依存することであった。ムラや生まれ育ったマチを離れ,生家を離れて他のマチの商家や職人の家の家長を親方とすることは,子飼い住込みの丁稚(弟子)奉公人となるときに,その家の子方となることを意味した。…
…その後,若者との交際が認められたのである。また,初鉄漿のおりには鉄漿親,鉄漿付け親,筆親などと呼ばれる女性,もしくは1組の夫婦との間に擬制的親子関係を結ぶ慣習も広くみられた。鉄漿親としては親類の者とか,村内の中年以上の適当な女性が選ばれるが,婚礼時の初鉄漿の場合には仲人が兼ねることが多かった。…
※「鉄漿親」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」