先天性表皮水疱症(読み)せんてんせいひょうひすいほうしょう(英語表記)Epidermolysis Bullosa Hereditaria

家庭医学館 「先天性表皮水疱症」の解説

せんてんせいひょうひすいほうしょう【先天性表皮水疱症 Epidermolysis Bullosa Hereditaria】

[どんな病気か]
 刺激が少し加わっただけで、表皮皮膚のいちばん外側の組織)や、その近くに水ぶくれ水疱(すいほう))のできる病気を水疱症(すいほうしょう)といいます。表皮水疱症は、厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))に指定されています。
 このうち、体質が遺伝したためにおこるものを先天性表皮水疱症といい、つぎのような病型があります。
■単純型表皮水疱症(たんじゅんがたひょうひすいほうしょう)
 ケラチン5/14の遺伝子異常が原因といわれ、常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)します。
 生後まもなくから、手足をはじめ、からだの摩擦(まさつ)を受けやすい部位に大小の水疱ができ、やがて破れてただれますが、あとが残ることはありません。
 夏に病状が悪化します。思春期以降は、病状が軽くなる傾向があります。
■優性栄養障害型表皮水疱症(ゆうせいえいようしょうがいがたひょうひすいほうしょう)
 Ⅶ型コラーゲンの遺伝子異常が原因といわれ、常染色体優性遺伝します。
 幼小児期に、四肢(しし)(両手足)の外側に水疱が発生し、破れてただれとなり、その後に瘢痕(はんこん)(ひきつれ)や稗粒腫(はいりゅうしゅ)を残します。しばしば爪(つめ)の変形や脱落、手足のゆび(指趾(しし))先の萎縮(いしゅく)がおこります。魚鱗癬(ぎょりんせん)、毛孔苔癬(もうこうたいせん)、多汗症、多毛症などを合併することも少なくありません。夏に病状が悪化し、冬は軽くなる状態が生涯、続きます。
■劣性栄養障害型表皮水疱症(れっせいえいようしょうがいがたひょうひすいほうしょう)
 原因は優性栄養障害型表皮水疱症と同じで、常染色体劣性(れっせい)遺伝します。
 生下時または生直後から四肢や体幹に多数の水疱がみられ、その部位に瘢痕や稗粒腫が残り、瘢痕の部位に潰瘍(かいよう)が発生し、がん化することもあります。手足のゆび(指趾)が癒着(ゆちゃく)し、棍棒(こんぼう)のようになることもあります。
 皮膚の乾燥、爪・歯の変形、脱毛のほか、口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)・食道の粘膜(ねんまく)にも水疱が発生し、その後にひどい瘢痕が残り、嚥下障害(えんげしょうがい)がおこることもあります。
■接合部型表皮水疱症(せつごうぶがたひょうひすいほうしょう)
 ラミニン5、ⅩⅦ型コラーゲンの遺伝子異常が原因といわれ、常染色体劣性遺伝します。
 生下時、爪のつけ根に水疱がみられ、全身の皮膚、口腔粘膜、気管などにも波及し、あとに治りにくいただれが残ります。とくに鼻や口の周囲のただれが治りにくいものです。
 発病後、数か月以内に死亡することが多いのですが、青年まで成長するケースもあります。
[検査診断]
 病型によって予後が異なるので、電子顕微鏡検査で病型を確定します。血液検査でDNAを用いた遺伝子診断を行なえばさらに確実です。
[治療]
 皮膚の病変部に抗生物質含有の軟膏(なんこう)を塗ります。強い炎症には、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)軟膏を用いることもあります。治りにくいただれには、創傷被覆剤(そうしょうひふくざい)を塗布します。ビタミンEの内服が効果を発揮することもあります。
 劣性栄養障害型で手足のゆび(指趾)が癒着した場合は形成術が、食道が狭くなって嚥下障害がおこったときには、食道拡張術が必要になります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「先天性表皮水疱症」の解説

先天性表皮水疱症
せんてんせいひょうひすいほうしょう
Epidermolysis bullosa hereditaria
(皮膚の病気)

どんな病気か

 先天性表皮水疱症には①単純型、②接合部型、③栄養障害型の3つの病型が含まれていて、重症度や治り方もだいぶ違います。ひとまとめにして共通する特徴としては、①親から子どもへと伝わっていく病気である、②軽い刺激で水疱を生じる、③原則として乳児、幼児に発症する病気で、こすれやすいところに水疱ができる病気です。

 また、遺伝性以外のもの、たとえば“とびひ”のような感染症などは、水疱ができてもこの病気には入りません。

原因は何か

 根本的な原因は、遺伝子の変異です。ケラチン、プレクチン、ラミニン、インテグリン、Ⅶ型コラーゲン、BPag2などの遺伝子の変異で病気が起こりますが、水疱は機械的な刺激によって生じます。

症状の現れ方

 病型によって千差万別といってもいいくらいです。共通する特徴は、生まれた時から、または生まれて間もないころから、こすれたりぶつかったりするところに水疱が生じることです。

検査と診断

 確定診断には、①皮膚をとって、光学顕微鏡で調べる(皮膚生検)、②同じく、蛍光(けいこう)抗体法で欠損している蛋白を調べる(皮膚生検)、③同じく電子顕微鏡で調べる(皮膚生検)、④遺伝子診断が必要です。④ができれば、②③は必要ではありません。

治療の方法

 遺伝子治療はまだ行われていないので、対症療法になります。

 対症療法には、最重症の患者さんに表皮移植を行うような、ごく限られた施設のみで可能な治療法から、通常の潰瘍に対する一般的な治療、たとえば軟膏療法などまで広くあります。

病気に気づいたらどうする

 こすったり、ぶつけたりすることによって水疱が生じる病気ですから、保護がいちばん大切です。

田中 俊宏

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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