日本大百科全書(ニッポニカ) 「光吸収分析」の意味・わかりやすい解説
光吸収分析
こうきゅうしゅうぶんせき
light absorption analysis
物質に対する光の吸収現象を利用した分析法の総称。光が物質を通るときにいろいろな現象がおこるが、光子が適当なエネルギーをもっていれば、光子は試料に吸収され、その結果原子や分子が励起される。このとき吸収される光のエネルギーと物質を構成する原子や分子のエネルギー状態との間には密接な関係があるので、特定の波長の光の吸収を観測することによってその物質がなんであるかを調べることができる。また入射光の強さと透過光の強さとの比の対数は、物質の濃度が一定のときは光が通過する光路長、すなわち光の通過する媒質の厚さに比例し(ランベルト則)、光路長が一定のときは媒質の濃度に比例する(ベール則)という関係があるので、光が物質に吸収される程度を測定することによって物質の濃度を求めることができる。
これらの関係は、可視光領域ばかりでなく、一定の条件下では電磁波とよばれる広い波長領域のすべて、すなわち最短波長のγ(ガンマ)線領域から最長波長の電波領域に及ぶすべての領域において成立する。光吸収分析ということばも古くは可視領域に限られて使われていたが、広義には電磁波のすべての領域での吸収現象を利用した分析法の総称として使われることが多く、さまざまな名称のついた吸収分析法があり、分析の目的に応じて使い分けられる。すなわち、γ線のエネルギーは原子核に関する、X線から紫外線のエネルギーは内部電子の準位間遷移に対応するので主として原子に関する、また可視光線は主として価電子の準位間遷移に対応するので分子に関する情報を与えてくれる。赤外線のエネルギーは分子内原子の種々の振動と回転準位遷移に対応するので、各種有機官能基の同定や気体分子の定量に、電波は回転準位遷移に対応して気体分子に関係し、また核磁気共鳴や電子スピン共鳴と組み合わせてその吸収現象が物質の定性、定量に利用されている。
[高田健夫]