翻訳|aberration
天体からくる光の方向を定めるとき,観測者がある速度で運動しているときには天体の位置が運動方向にずれる。このずれを光行差という。これは光が空間を有限速度で走るために起こる現象で,風のないとき静かに垂直に降る雨が,電車に乗っている人から見ると斜めに降るように見える事実に対比して説明される。光の速度をc,観測者の速度をvとすると,光行差aは,という値の角度になる。角度θは天体の見える方向と,観測者の運動速度の方向とのなす角である。
地球の公転運動は太陽を焦点とする楕円運動であるが,その軌道速度は円軌道とみなしたときの平均速度29.76km/sと,楕円運動による微小な補正項との和になる。光行差を考える場合には円軌道速度のみを使って考えるが,これを年周光行差という。天体が黄道の極にあれば,年周光行差は半径k=20.″49の微小円になり,平均位置よりのずれは地球の進行方向,すなわち太陽に対して東へ90°離れた方向になる。天体が黄道上にあれば光行差は長さ2kの線分上の往復運動になり,天体が黄緯βの位置にあれば光行差は半長軸k,半短軸ksinβの微小楕円になる。
1725年イギリスのJ.ブラッドリーは,ロンドン近郊のキューに設置した天頂セクターという長さ3.8mの特殊望遠鏡を使い,ロンドンの天頂を通過するりゅう座γ星の赤緯変化を精密観測して年周視差を発見しようとしたが,検出された結果は年周光行差であった(1728)。年周光行差の場合にはどの天体に対しても一律にk=20.″49であり,これを光行差定数というが,年周視差の場合には天体の距離に応じて,このずれの角度は異なり,もっとも近い星の場合でも視差p=0.″760という微小角で,ブラッドリーの測定精度では達しえなかった。また,ずれの方向は光行差楕円と視差楕円では位相が90°異なっている。
地球の自転については赤道地点での速度は0.465km/sで,中間緯度φの地点では0.465・cosφkm/sである。自転はつねに西から東へむいているので,この運動による光行差は,
a=0.″320・cosφ・sinθ′
だけずれる。角度θ′は地平線上の東点と天体の見える方向との間の角である。これを日周光行差という。この量は星の出,星の入りのときに小さく,南中時に最大になり,天体の赤緯をδとすると,光行差により南中時刻はどの星も0.021・cosφ・secδ秒だけおくれる勘定になる。
近傍恒星系に対する太陽運動(速度20km/s)による光行差を永年光行差というが,観測的にはこの種の補正は行わない。太陽系内の天体の場合,惑星,すい星の運動がわかっていて,光が天体を出発してから地球に到達するまでの時間内の動きの補正値を惑星光行差として位置の同時性を確定するが,実用的には微小時間内での地球運動の一様性を仮定し,天体から地球までの光の経過時間(光差)だけ観測時刻を引き戻して軌道計算を行っている。恒星ではこの種の補正はいっさい考慮せず,各星につき光が地球に到着した時点で同時性を考えている。
執筆者:石田 五郎
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運動している(一定方向に動いている)観測者に天体から光がくるとき、観測者には光が真の方向より前進方向に傾いた方向からくるように見える。この現象、または見かけの方向の真の方向からのずれを光行差(詳しくは恒星光行差)という。光行差の大きさは、観測者の運動の速さが大きいほど、また進行方向に対する天体方向の角が90度に近いほど大きい。地球上の観測者は地球自転と公転との2運動をしている。前者による光行差を日周光行差、後者によるものを年周光行差とよぶ。地球の自転速度は、赤道上でも公転速度の100分の1強にすぎないから、日周光行差は年周光行差の約100分の1強と小さい。地球公転方向に垂直にきた光は、年周光行差により約20秒角だけ進行方向にずれた方向からくるように見える。この角を光行差定数といい、位置天文学上重要な量である。ちなみに1度は円周の360分の1の角度で、90度(直角)は4分の1の角度。1分は度の60分の1、1秒は分の60分の1の角度である。
[大脇直明]
惑星や月など、恒星に比べ近距離で地球から見た運動が速い天体では、その見かけの方向は、天体の幾何学的位置の方向と、恒星光行差と光差によるずれを加えた分だけずれて見える。このずれを惑星光行差という。ここで光差とは、天体から出た光が地球に到達する時間をいう。光が地球に達したときは、天体はすでに光差分だけ動いている。したがって、地球から見たときには、天体はすでにその方向にはないわけである。その真の位置とのずれが光差によるずれといわれるものである。
光行差は1727年、イギリスのブラッドリーが恒星位置の特別な年周変化から発見したものである。なお、地球公転による光行差(年周光行差)は、地球の公転速度がほぼ一定なので、ほぼ一定で、約20秒角となる(したがって太陽は真の位置より約20秒角だけ西に見えているのである)。
[大脇直明]
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…光学系の結像において,与えられた明るさと画角の下では,1点から出てレンズに入射する多くの光線は,レンズを出た後は再び1点に収束せず,ある広がりをもって像面上に散らばる。また,このほかにも像面が曲がったり,像の形がゆがんだりする。これらの現象を総称して収差という。光学材料の屈折率が光の波長によって異なる(分散)ために像の色がにじんだり,色のふちどりが生ずる現象が生ずるが,これは色収差と呼ばれる。
[ザイデルの5収差]
ドイツのザイデルLudwig Philipp von Seidel(1821‐96)は,単色光に対して,共軸球面系(各屈折面の曲率中心が一直線上に並んだ光学系)の光軸のまわりの対称性から収差を5種類に分類した。…
※「光行差」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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