日本大百科全書(ニッポニカ) 「児物語」の意味・わかりやすい解説
児物語
ちごものがたり
御伽草子(おとぎぞうし)における、僧院の稚児(ちご)をめぐる恋愛物語の総称。中世の寺院・僧房は女性の立ち入りが禁止されていたが、これにかわって僧侶(そうりょ)の身の回りの世話や、仏を祀(まつ)るための諸事の行いは年少の男子に任されていた。その結果、僧侶と稚児との、あるいは稚児同士の、また稚児と寺院外の女性との恋愛がしばしば生じた。これを素材として宗教的要素を濃くして、幻想的にかつ悲劇的に物語化したものである。稚児は理想化された美しさで描かれ、いわば神仏の化身のように取り扱われている。中世の流行語の「一児二山王」は、現実と物語世界のいずれにもおける僧侶の稚児に対する憧憬(しょうけい)敬重を物語ることばといえよう。また鎌倉時代までの説話集にみる僧侶とその弟子の種々の説話や、民間伝承の昔話にみる「和尚(おしょう)と小僧」型の笑話もこの児物語の成立に関与していた。『嵯峨(さが)物語』の序文には天竺(てんじく)、唐土、本朝の男色の例が掲げられているが、そのほかの作品に、『上野君消息(こうずけのきみしょうそく)』『秋の夜(よ)の長物語』『あしびき』『幻夢物語』『鳥部山物語』『松帆浦(まつほのうら)物語』『弁(べん)の草紙(そうし)』『花みつ』『ちごいま』『稚児観音(かんのん)縁起』などがある。
[徳田和夫]
『市古貞次著『中世小説の研究』(1955・東京大学出版会)』