草紙(読み)ソウシ

デジタル大辞泉 「草紙」の意味・読み・例文・類語

そう‐し〔サウ‐〕【草紙/草子/双紙/冊子】

《「さくし(冊子)」の音変化か》
漢籍和本などで、紙をじ合わせた形式書物。綴じ本。
物語・日記・歌書など、和文で記された書物の総称
御伽おとぎ草紙くさ双紙など、絵入りの通俗的な読み物の総称。
習字用の帳面手習い草紙
書き散らしたままの原稿
「この―、目に見え心に思ふ事を」〈・三一九〉
[類語]折り本綴本巻子本冊子

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精選版 日本国語大辞典 「草紙」の意味・読み・例文・類語

そう‐しサウ‥【草紙・草子・冊子・双紙・造紙】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「さくし(冊子)」の変化した語。「ぞうし」とも )
  2. ( 巻物、巻子本に対して ) 紙をとじ合わせて本の体裁にしたもの。書や歌や文章を書いてあってもなくても、冊子の形態をなしたものをいう。大和綴(やまととじ)袋綴(ふくろとじ)など種々のとじ方がある。とじ本。
    1. [初出の実例]「唐の色紙を、中より押し折りて、大のさうしに作りて、厚さ三寸ばかりにて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
    2. 「まだ書かぬさうしども作り加へて、表紙・紐などいみじうせさせ給ふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)梅枝)
    3. 「真言造紙者卅帖策子也」(出典:東宝記(1352)二)
  3. 物語、日記、歌書など和文で記された書物の総称。
    1. [初出の実例]「古今のさうしを御前におかせ給ひて」(出典:枕草子(10C終)二三)
    2. 「畢竟はぼだひ門に引いるるやうに仏法をもてかきたる物語なれば、つねの草子にかはりて、歌にもことばにも、ふかき心得有事を、そこそこにをしへて」(出典:随筆・戴恩記(1644頃)上)
  4. 書き散らした原稿。草案。また、心覚え
    1. [初出の実例]「このさうし、目に見え心に思ふ事を、人やは見んとすると思ひて、つれづれなる里居のほどに書き集めたるを」(出典:枕草子(10C終)三一九)
  5. 御伽草子や草双紙などの絵本やさし絵入りの小説本の総称。また、広く小説を、戯作文学的な意をこめて呼ぶ時にも用いる。草紙本。
    1. [初出の実例]「ちがひだなにあらふずる石橋山のさうしをとてこひと仰られて」(出典:虎明本狂言・文蔵(室町末‐近世初))
    2. 「英(いぎりす)の句(く)レイク翁亜(あ)リボン翁などは批評家(あなさがし)の尤物株(おやだまかぶ)なり古今の小説家の〈略〉非評(わるくち)もいはれたりき然はあれ件(くだん)の翁達にお説の様なる完全なる稗史(サウシ)を著(かき)てよと乞ひたらんには」(出典当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙はしがき)
  6. 字などを習うための帳面。手習い草紙。
    1. [初出の実例]「手習をさせむ双紙(サウシ)神無月」(出典:俳諧・新増犬筑波集(1643)油糟)

草紙の語誌

( 1 )もと、のように、巻物に対して、紙をとじ合わせた本をいった。これは平安時代中頃から盛んに作られ、仮名で書かれた日記・物語・随筆歌集などの多くが、この仕立だったので、公的なものに対する私的なもの、簡略でとりとめないものなどと考えられるようになり、の意が生じ「草子」「草紙」の表記が行なわれるようになった。
( 2 )室町期以後、非知識層を対象とした気楽な読み物の意が一般化し、「物の本」に対する語として、の文学ジャンルを広くさす名称となった。また、の形が用いられている故に生じた意味である。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「草紙」の意味・わかりやすい解説

草紙
そうし

紙を綴(と)じたものおよび綴じてつくった書物の総称。「草子」「冊子」「策子」「双紙」などの字もあてる。製本形式の一つで、粘葉綴(でっちょうとじ)、胡蝶(こちょう)綴、大和(やまと)綴、袋(ふくろ)綴など綴じ方は多様であるが、紙を重ねて糊(のり)または糸、こより、紐(ひも)などで綴じたものをいう。古代から行われていた「巻子本(かんすぼん)」(巻物)にかわって、中国では唐代(7~9世紀)、わが国では平安初期(9世紀初頭)からみられるが、空海が唐から将来した『三十帖(さんじゅうじょう)冊子』が原形と思われる。

 大きく、糊綴と糸綴に分けられるが、糊綴は「粘葉綴」といい、二つ折りにした料紙の折り目の部分に糊をつけて重ねていく方法。初めは巻子本同様、これに表紙と紐をつけてくるんでいた(『三十帖冊子』がこの形式)が、のちには表紙も糊付けした『元暦(げんりゃく)校本万葉集』や『御物粘葉本朗詠』の形となった。

 糸綴は3、4枚ずつ重ねた料紙を二つ折りにし、その折り目の部分を糸で綴じるが、その形態から「胡蝶綴」「襲(かさ)ね綴」などとよぶ。『関戸本(せきどぼん)古今集』『元永本(げんえいぼん)古今集』などがこれで、平安中期以降もっぱらこの技法が用いられた。『一条摂政(せっしょう)集』などにみられる「大和綴」は、重ねた料紙の背に近い部分に二ないし四か所錐(きり)で穴をあけ、こよりまたは紐で綴じたもので、簡便な仮綴から始まった形だが、しだいに表紙や紐がりっぱになっていった。「袋綴」とは、料紙を二つ折りにして重ね、表紙と裏表紙をつけて糸で四か所綴じる形式をいう。綴じ穴が四つあるところから「四つ目綴」ともよばれる。中国の明(みん)代(14~17世紀)の製本形式が室町時代にわが国に入り、江戸時代に流行した技法である。

[植村和堂]

 なお「そうし」ということばは、古くは物語、日記、歌書などの和文で記された書物(例『枕草子(まくらのそうし)』)を、近世では御伽(おとぎ)草子、草双紙、絵草紙のように、絵本や挿絵入り小説本の総称、あるいは字を習うための手習草紙をさすなど、さまざまに用いられている。

[小川乃倫子]

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世界大百科事典(旧版)内の草紙の言及

【本屋】より

…したがって〈物の本屋〉=本屋は,宗教書,学問書,教養書などの書物を商う者の称であった。これに対して,娯楽的な書物は草紙(草子)といわれ,これを商う者は草紙屋,絵草紙屋と称された。江戸時代には総称して本屋ともいったが,正式には取扱い品目,名称が区別されていた。…

※「草紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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