日本大百科全書(ニッポニカ) 「入江経一」の意味・わかりやすい解説
入江経一
いりえけいいち
(1950― )
建築家、デザイナー。東京都生まれ。1974年(昭和49)、東京芸術大学美術学部建築科卒業、1976年同大学大学院修士課程修了。1976~1980年、東京工業大学篠原一男研究室に所属。1980年、入江建築設計事務所設立、1987年、パワーユニットスタジオに改称。多摩美術大学美術学部情報デザイン学科教授(1998~2000)、岐阜県立情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授(2000~ )などを務める。
東京芸大在学中、北欧に滞在しアルバ・アールトやピエティラ夫妻(Reima Pietila(1923―1993)、Raili Pietila(1926― ))、アルネ・ヤコブセンArne Jacobsen(1902―1971)などのモダン・デザインを生活のなかで経験していたこと、評論家多木浩二(1928―2011)らとの都市フィールドワークとその理論化、キャラバン展(1991、シドニー現代美術館)をはじめ、トランスフィギュレーション展(1989、ブリュッセル)、ベネチア・ビエンナーレ・イタリア館(1996)などにインスタレーション作品を出品するなどの活動を早くから行っていたことなどが入江の建築家としての独自性を形成している。さらに事務所設立後、建築設計だけではなく、書籍やカタログのディレクション、照明や家具、トイレタリーなどのプロダクト・デザインなど多角的な活動を行っている。
より広いデザインのジャンルのなかで建築とかかわるために、入江の建築やデザインの表現は、建築家としての自らのスタイルの確立というよりも、雑然とした日本の都市とのかかわりを表現したり、形態がつくられるシステムそのものを見せようとする。
逗子海岸の住宅(1980)、八柱(やばしら)の住宅(1983)、参宮橋の住宅(1985)、Bean House(1992)では、建築表現としてのボリュームは安定化、象徴化することなく、いくつかの断片に分割、併置され、内部空間にもさまざまなかたちや要素が入り込んでいる。熊本の石打ダム資料館(1993。アーキテクチャー・オブ・ザ・イヤー、松井源吾賞)、W-House(1996。吉岡賞)、T-House(1998)などの作品ではさらに全体の構造や構成にさまざまな変化がつけられ、建築のプログラムとの楽しげな対応が見られる。
東京・町田市玉川学園の集合住宅「モノル」(1991。『住宅建築』賞特別賞)は複数の住宅関連企業と住宅関連のプロダクトを開発しながら作りあげたプレハブ集合住宅である。そのほかZハウス工業化住宅(1986。積水ハウスと共同開発)などプレハブの住宅に対しての設計やデザインに関与する。
卓越したデザインセンスを備えているというだけではなく、プロダクト・デザインや建築に対してさまざまな方法でアプローチする入江の視線は常に現代都市、すなわち情報化された消費社会と向きあっている。
教鞭をとるIAMASでは、住空間やオフィス空間におけるひとともののインタラクションを情報技術、コンピュータ技術を用いて解析し、テーブルなどの日常品や部屋が思考や労働を助ける、といった新しい環境デザインを開拓している。
[鈴木 明]