食の医学館 「内臓肉」の解説
ないぞうにく【内臓肉】
《栄養と働き》
牛や豚、鶏などの精肉以外の可食部分全般を総称して、副生物(ふくせいぶつ)といいます。レバーをはじめとした内臓類のほか、舌や筋、耳、足なども、この副生物に含まれます。
肉食の歴史が古い中国やヨーロッパでは、副生物が日常的な食材として親しまれており、その調理方法もさまざま。リ・ド・ヴォーと呼ばれる仔牛(こうし)の胸腺(きょうせん)は、フランス料理でももっとも美味な高級素材の1つとして、珍重されているほどです。
一方、日本では味やにおいにクセがあるため、副生物を敬遠する人が多く、あまりじょうずに利用されているとはいえません。しかし、副生物には精肉以上に栄養価が高いものが多く、部位によって独特の味わいをもっているので、もっと積極的に食卓へ取り入れたいものです。
〈豊富なレチノールが、呼吸器や目、肌の健康に高い効果を発揮〉
○栄養成分としての働き
副生物の代表格といえば、モツ、ホルモンなどと呼ばれる内臓類です。全般的に内臓類は、たんぱく質を精肉と同じくらい含む一方で、脂質が少なく、ビタミン、ミネラルは極めて豊富という特徴があります。そうしたなかでももっとも栄養価が高く、一般家庭で利用される機会も比較的多いのが肝臓(レバー)でしょう。
肝臓には消化のよい良質の動物性たんぱく質をはじめ、ビタミンAの一種であるレチノール、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、鉄などが大量に含まれています。とくにレチノールはほんの一切れ、鶏や豚のレバーなら約5g程度で1日のビタミンAの所要量を満たしてしまうほど。
ビタミンAには、皮膚や粘膜(ねんまく)、髪の毛の健康を保つ、免疫力を強化する、目の健康を維持する、などの働きがあります。そこで、かぜや気管支炎(きかんしえん)、鼻炎のような呼吸器系の病気、ものもらい、眼精疲労(がんせいひろう)、ドライアイといった目の病気の予防や改善に役立ちます。さらに、肌荒れや髪のぱさつきを防いで、美容にも役立ちます。
鉄も精肉よりずっと多く含まれ、その吸収率もよいことで知られています。貧血はもちろん、虚弱体質や疲労倦怠(ひろうけんたい)、冷え症の人も積極的に食べるようにするといいでしょう。ちなみに豚の肝臓は牛や鶏にくらべて、より多くの鉄を含んでいます。
さらに、良質のたんぱく質をはじめとする、さまざまな栄養素が相乗的に働くことによって、肝炎や肝硬変(かんこうへん)などの肝臓疾患の症状改善、および老化防止にもおおいに役立ちます。
〈アキレス腱などに含まれるコラーゲンは美容にも最適〉
そのほかの副生物では、心臓や腎臓(じんぞう)が、肝臓ほどの量ではないものの、同様の栄養素を含有。アキレス腱(けん)などの筋の部分、豚足(とんそく)や豚耳(とんじ)、モミジと呼ばれる鶏の足などは、肌や髪の美容に欠かせないコラーゲンが豊富です。アキレス腱、豚足は、じん帯の損傷などに有効なコンドロイチン硫酸を含んでいます。
このように、部位によって含まれる成分にちがいはありますが、どの副生物も栄養的な利用価値は大。ですから、各部の特徴をよく理解したうえで利用するのがコツです。
《調理のポイント》
〈新鮮なものを選び、下ごしらえをしっかりするのが鉄則〉
副生物を選ぶ場合にもっとも重視すべきなのは、新鮮かつ健康なものであること。
副生物は精肉より、はるかに鮮度が落ちやすく、古くなると特有のにおいがさらに強くなります。また、うまみがでてくるまでにある程度の熟成が必要な精肉とちがい、副生物は新鮮なほど味がよいのです。
選ぶときの目安は、肝臓の場合、鮮やかな赤褐色で表面につやがあり、さわると弾力を感じるものを。切ってあるものなら、切り口がしっかりして角の立っているようなものを選びましょう。表面が白っぽくなっているのは、鮮度が落ちている証拠なので避けるべきです。心臓や腎臓の選び方も、これに準じます。
白モツと呼ばれる胃腸の場合、きれいな乳白色で弾力があり、変色した部分や強いにおいのないものが良質です。信頼できる精肉店に、よい品を選んでもらえるようになれば申し分ありません。
ところで、先にも述べたように、副生物は部位によらず味やにおいにクセがあり、それは牛、豚、鶏ともに同様です。そのため、調理に先だって血抜きをしたり、下味をつけるなどの下ごしらえをしっかり行うことがたいせつとなります。
〈下ごしらえでビタミンが溶けださないように注意〉
肝臓の下ごしらえは、表面の薄い膜(まく)や血のかたまりを取り除いたあと、薄い塩水や牛乳につけて血抜きをします。ただし、このときあまり長時間つけておくと、水溶性のビタミンB群やビタミンCなどが溶けだして、失われてしまうので、20~30分にとどめてください。心臓や腎臓も同様の下ごしらえをしますが、腎臓は中央にある白い部分ににおいが強いので、血抜きの前にこれを包丁で削(そ)ぎとっておきます。
胃腸などは、塩とおからをまぶしてよくもんでからゆでると、においがなくなります。店ではすでに下ごしらえがすんで、ゆでたものが売られているので、あまり手をかける必要はないでしょう。
新鮮な副生物に、このような下ごしらえをしたうえで、ニンニクやショウガなどの香辛料をきかせて料理をすれば、ほとんどにおいも気にならなくなるはずです。
○注意すべきこと
肝臓を毎日のように食べすぎると、極めて豊富なレチノールが逆にあだとなり、ビタミンA過剰症をまねくことがあるので注意が必要。ビタミンA過剰症になると、欠乏症と同じように、疲労、肌荒れ、食欲不振などの症状がでます。