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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
涙は、悲しい時や痛い時に出るだけでなく、常に少しずつ分泌され、眼の表面(角膜・結膜の表面)を常に薄い涙の膜でおおって保護し、栄養を与えています。
涙の層は、図17に示すように角・結膜側から順に粘液層、水層、油層の3層構造をとっています。この涙が減って、眼の表面が乾いて、いろいろな症状を起こしてくる状態をドライアイといいます。
基本的には、乾性角結膜炎や涙液減少症というのも同じことですが、ドライアイという用語は、非常に軽度の人や涙の質的異常の人も含めて広く使用されています。たとえば、傷がなくても眼が乾くという症状があればドライアイですし、涙の水分量は正常なのに短時間で蒸発してしまう場合(油層の形成が悪い場合)もドライアイです。
それに対して、涙液減少症は涙の量が実際に減少している場合に、乾性角結膜炎はそれに加えて何らかの傷がある場合に限定されて使用される用語です。しかし、最近はすべてドライアイで総称するようになってきています。
一般的には、涙液の分泌は年齢とともに低下してゆき、とくに女性のほうが乾きやすくなる傾向があります。さらに、あとに述べるような環境要因が加わると容易にドライアイの状態になります。
このような軽いドライアイの人が大多数ですが、シェーグレン症候群という非常に重症のドライアイがあります。この場合の原因は自己免疫といって、自分の
別項で述べる
眼が乾く、ころつくというような症状が一般的ですが、軽いタイプのドライアイでは充血する、眼が疲れるといった症状の場合もあります。重症の場合は、視力も低下してきて、ころつきをとおり越して眼痛を訴えることもあります。
ドライアイは左右差はもちろんありますが、通常は両眼性です。
ドライアイでは、涙の分泌が低下しているかどうかをみる必要があります。いくつかの方法がありますが、シルマー試験という方法が最も一般的です(図18)。
これは下の赤目のところに帯状の
また、眼の表面の傷をみるには、点状表層角膜症(てんじょうひょうそうかくまくしょう)で述べたフルオレセイン染色で角膜の傷の状態をチェックしますが、結膜の傷はフルオレセインではわかりにくいので、ローズベンガルという赤い色素で染色します。
涙液の分泌を増やすのが理想ですが、残念ながら現在まだそういう治療は確立していません。そのため、外から人工涙液を点眼して補うか、あるいは、分泌された涙を眼の表面で長く保たせるようにします。
後者の方法としては、フードのついた眼鏡(ドライアイ眼鏡)をかけて涙の蒸発を減らす方法と、涙が鼻へ抜けていく通路をふさぐ方法が行われています。
まぶたの
ドライアイは、環境要因がその病状を非常に左右する病気です。昔はあまり問題になっていなかったのに、最近の日本で爆発的に患者さんが増えているのもそのためです。
コンタクトレンズ、エアコン、コンピュータ作業はドライアイを助長する3大要因なので、症状がひどい時は、コンタクトレンズの装用をやめる、コンピュータの作業時間を減らすなどの注意が必要です。
また、エアコンの噴出する車の助手席には座らない、自分の部屋に加湿器を備えるなど周囲の環境を乾燥しにくいようにアレンジしていくことも重要です。
乾くからといって点眼薬を使いすぎると、そこに含まれている防腐剤によって角膜の表面が余計に傷んでしまうので、点眼の回数が多い場合は、防腐剤を含んでいないものを使用するようにしましょう。
点状表層角膜症、シェーグレン症候群、兎眼、スティーブンス・ジョンソン症候群
井上 幸次
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
涙の量の減少・質の変化によって、目の表面、角膜や結膜の健康が損なわれる疾患。平易にいえば「目が乾く」ことだが、その病態は複雑である。涙の分泌が減って涙が不足する、涙の蒸発量が増えて目が乾く、涙の安定性が悪くなる、などがある。これらにより、角膜や結膜の表面がいわば肌荒れのような状態となり、目の不快感、疲れなどの症状が現れる。また、その痛みや刺激により反射性の涙が出てしまう「ウェットタイプのドライアイ」もドライアイの一つである。
ドライアイは、先進国では急激に増えている現代病であり、日本でも推計患者数は2200万人に上るという調査データがある。2007年には、日米を中心に世界各国の医師や研究者が集まり世界ドライアイワークショップが開催され、ドライアイの世界診断基準が定められた。
[坪田一男 2024年5月17日]
なんとなく目に違和感がある、目が疲れる、というような不定愁訴として現れる。目がゴロゴロする、目が重い、目がショボショボする、目が熱をもったような感じがする、目が開きづらい、目がしみる、ヒリヒリする、などのほか、目の充血、白っぽい目やにが出る、朝に目が開かない、午後になると目がかすむ、視力はいい(あるいはきちんと矯正している)のになんとなく見づらい、などである。悪化してくると、目の表面が痛い、目を開けていられない、などから、頭が痛い、頭が重い、肩が凝る、気分が悪いなどの全身症状に発展する場合もある。
[坪田一男 2024年5月17日]
原因は複合的と考えられている。涙そのものの減少のほか、涙の表面を覆って蒸発を防ぐ脂質の分泌腺「マイボーム腺」がなんらかの原因で詰まるなどして、涙が乾きやすくなるような環境的要因も大きい。パソコンやテレビ、携帯電話の画面などのモニターを見続ける生活により、まばたきが減少して涙の分泌が減ったり、冷暖房などの空調により室内が過度に乾燥したりする、といった要因である。
涙の分泌は、副交感神経(リラックスしたときに働きが亢進(こうしん)する)に支配されており、交感神経(緊張時に働きが亢進する)の優位時には減少する。近年、コンタクトレンズ使用者の増加に伴い、コンタクトレンズの長時間・長期使用により発症する例や、レーシックなどの目の手術後に発症する例が増えている。また、加齢に伴う涙量の減少や涙の安定性の低下などが報告されている。シェーグレン症候群などの自己免疫疾患や、スティーブンス-ジョンソン症候群などの病気により涙がほとんど出ない重篤なドライアイもある。
[坪田一男 2024年5月17日]
ドライアイ研究会による「日本のドライアイの定義と診断基準」(2016年版)では、「涙液層破壊時間(tear film break-up time:BUT)が5秒以下かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)」があれば、ドライアイと診断される。そのような診断のうえで、適切な治療により改善が可能である。保湿のためのヒアルロン酸点眼、涙の排水口である涙点をふさいで涙をためる涙点プラグ治療が保険適用となっているほか、温熱療法、モイスチャーエイド(保護メガネ)、重症例には自己血清を用いた血清点眼の治療などがある。
日常生活でも、まばたきを意識的に増やす、モニター画面を下に見下ろすようにする、パソコン作業の合間にほかの作業を交えるなど、目を乾かさないくふうが大切である。
また、ドライアイは、現代社会においてクオリティ・オブ・ライフquality of life=QOL(生活の質)を著しく低下させる疾患として注意が必要である。将来的には、涙の代用となる薬剤の開発や、涙の分泌そのものを増やす治療、涙腺の再生医療などが期待されている。
[坪田一男 2024年5月17日]
『小口芳久監修・坪田一男編集『Ocular Surfaceの診断と治療――ドライアイ』(1993・メディカル葵出版)』▽『坪田一男著『10秒間まばたきせずにいられますか?――ドライアイの最新治療とアンチエイジングアプローチ』(2008・日本評論社)』▽『坪田一男著『涙のチカラ――涙は7マイクロリットルの海』(2008・技術評論社)』
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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