六訂版 家庭医学大全科 の解説
内視鏡および腹腔鏡下手術の適応
ないしきょうおよびふくくうきょうかしゅじゅつのてきおう
Endoscopic and laparoscopic surgery
(お年寄りの病気)
内視鏡の発達に伴い、ポリープ切除術だけでなく内視鏡的粘膜切除術(EMR)が胃や大腸の疾患に対して広く行われるようになりました。
また、腹腔鏡下手術は、消化器疾患領域では
①
胆石症・胆嚢炎の手術適応については、消化器疾患の手術適応の項にあげたとおりです。原則的には症状がある場合にのみ適応となります。高齢者では症状の軽い例や頻度の少ない例では経過観察される場合も少なくありません。
高齢者における腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応もほとんど同じです。上腹部手術の既往のある患者さん、高度の炎症や線維化のみられる患者さんに対しては原則的に開腹術が行われます。
胆嚢結石に総胆管結石が合併している場合には、まず内視鏡的
状態の悪い患者さんや90歳を超える超高齢者には、胆石がある慢性胆嚢炎やその急性増悪に対して、経皮経肝胆嚢ドレナージ術で炎症を抑えれば十分なことがあります。炎症がおさまったら胆嚢摘出術などはしないで、そのままドレナージチューブを抜去すればよい場合が少なくありません。
②大腸の内視鏡および腹腔鏡下手術
主に早期がんに対して行われます。早期大腸がんのリンパ節転移の危険因子は①粘膜下層を中等度以上超えたがん
大腸の内視鏡的ポリープ切除術は、隆起型および表面隆起型のポリープに対して行われます。EMRは脈管侵襲のないm~sm1(粘膜内がん~わずかな粘膜下層浸潤がん)が適応となります。肉眼的には表面型から
腹腔鏡補助下大腸切除術の適応は、EMRの適応外およびEMRの困難な症例、深達度が粘膜下層への500㎛以下のわずかな浸潤であるものの、脈管侵襲陽性例(リンパ管浸潤+、静脈浸潤+)、および深達度が500㎛以上であるsm2以上の早期がん症例とすることが一般的です。しかし腹腔鏡補助下大腸切除術の適応を、進行がんや直腸がんに対する低位前方切除術にまで拡大している施設もあります。
山形大学消化器・乳腺甲状腺・一般外科における腹腔鏡補助下大腸切除例の術後の経過をみると、排ガスまでの期間や経口摂取開始時期は開腹手術に比べ腹腔鏡補助下の手術で短い傾向にあり、在院日数も短く、とくに高齢者で顕著に認められました(表19)。このことは腹腔鏡補助下大腸切除術が、高齢者における有用な大腸手術術式のひとつであることを示しています。
③胃の内視鏡および腹腔鏡下手術
胃がんにおけるEMRの適応は、リンパ節転移がなく、腫瘍が一括切除できる大きさで、一括切除できる部位にあること、具体的には2.0㎝以下の肉眼的粘膜がんと診断される病変で、組織型が分化型であるもの、また肉眼的に陥凹を有する場合は潰瘍を伴わないことです。
腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)の適応は、胃の中部から下部に存在するがんで、EMRの適応にならず、がん湿潤がsm1にとどまる早期胃がんです。なお、根治性よりも安全性や生活の質(QOL)を重視せざるをえない高齢者では、この適応は臨機応変に拡大されます。
がんが比較的高い位置にある場合は、腹腔鏡補助下幽門輪温存胃切除術(LAPPG)が適応となる場合があります。
木村 理
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報