胆道系(胆囊,肝内および肝外胆管)において,胆汁成分から生じた固形物質を胆石という。ただし,微小で無構造の砂状物質は胆砂と称し区別している。胆石の存在する部位により,胆囊胆石,胆管(肝外胆管)胆石,肝内(肝内胆管)胆石に分類される。そのうち,胆囊胆石が最も頻度が高く,胆石症cholelithiasisという名称は,一般に胆囊胆石症のことを指す。
胆囊胆石の保有率は年齢とともに高くなり,女性に多い。人種や居住地域によっても頻度に差がみられる。人種では,アメリカ・インディアンのある部族が最高の保有率を示し,成人女性で50%以上に胆石がみられる。欧米の白人においては,成人女性が10~30%の率であり,男性はその約半分である。また,アメリカの黒人では白人の半数以下である。アジア・アフリカ地域では頻度が低いが,日本においては成人の5~6%に胆石がみられ,アジアでは最高頻度を示している。胆管胆石や肝内胆石はアジア・アフリカ地域に頻度が高く,男女差はみられない。
胆石の主要成分として,コレステロール,ビリルビン(胆汁色素),カルシウム(石灰),脂肪酸などがある。それらの構成成分によって,コレステロール胆石,ビリルビン・カルシウム(色素石灰)胆石などと呼ばれ,この両者と両者の混合・混成されたコレステロール・色素石灰胆石(混成石の一種)の3種が主要な胆石である。そのほか,2種類以上の胆石の組合せからなる合併胆石,成分が明確にされていないが色調から黒色胆石と呼ばれるものなどがある。胆石の成分・種類により,色調,硬度,形状が異なる。コレステロール成分が多ければ白っぽく,胆汁色素では茶褐色となる。コレステロール胆石は硬くはないが,崩れにくい。色素石灰胆石は脆弱(ぜいじやく)である。また,コレステロール胆石においては球状の形を呈することが多いが,色素石灰胆石では円盤状や三角錐様の四面体などが多い。多数が詰まった胆石では,さいころ状の角ばった形状(切子面形成)を呈する。胆管や肝内胆石では,形のはっきりしない,泥状のもろい色素石灰胆石もみられる。
胆石の成因は,その種類により異なる。コレステロール胆石では,脂質代謝や内分泌の関与が大きく,胆汁中のコレステロール結晶の析出が胆石生成の第1段階とされる。色素石灰胆石では,胆汁の鬱滞(うつたい)や細菌感染が原因で胆汁に不溶のビリルビン・カルシウム塩が析出することが重視されている。色素石灰胆石は胆囊と胆管のいずれの場所においても生成されるが,コレステロール胆石は胆囊内においてのみ生成される。一般に,胆囊胆石の大半はコレステロール胆石であるが,日本を除いたアジアおよびアフリカ地域においては色素石灰胆石の頻度が高い。胆石の大きさ,数はさまざまである。直径1cm以内で数個以内のことが多いが,ときに数百個に達する小胆石や,直径3~4cmの巨大な胆石もみられる。
人類にとって,胆石による苦悩は有史以来認められており,古代エジプトのミイラにも胆石の存在が確認されている。臨床像は胆石の所在部位によって著しく異なる。
(1)胆囊胆石症 中年過ぎの,妊娠・出産の経験のある肥満型の女性に多い。普段はまったく無症状であるが,過食,脂肪食の後や,ときになんらの誘因もなく,発作的に強い上腹部痛(疝痛発作)を起こす。これは,〈しゃく〉〈さしこみ〉といわれる激痛で,苦悶状の顔貌で冷や汗をかき,前屈姿勢でうずくまるが,ときに苦痛のため七転八倒する。同時に軽度の黄疸がみられる場合もある。しかし一方,まったく痛痒を感じずに一生を過ごすこと(無症状胆石)もまれではない。そのため,胆囊内に胆石が存在するというだけでは必ずしも積極的な治療を要しない。胆石の存在診断には超音波検査が最も優れているが,病態診断や胆石の性状診断には排出性胆道造影(経静脈性や経口性)が必要となる。根治的療法として胆囊摘出術が行われるが,最近では腹腔鏡を用いた手術も行われる。コレステロール胆石では手術をせずに,胆汁酸製剤(ケノデオキシコール酸,ウルソデオキシコール酸)の内服による胆石溶解療法や,衝撃波による胆石破砕療法も行われる。予後は悪くない。まれに,急性胆囊炎の合併により,胆囊穿孔(せんこう)・腹膜炎を併発し,重篤となることもある。胆囊癌発生と疫学的な関連性が認められているが,病理学上の結論は出されていない。
(2)胆管胆石症 腹痛,黄疸,発熱のいわゆる胆石症の3徴候を呈することが多い。放置すれば予後は不良で,細菌感染による化膿性胆管炎や,胆汁鬱滞による肝臓障害などの重篤な合併症を併発する。診断は,経静脈性胆道造影や直接胆道造影(内視鏡的逆行性胆道造影や経皮的胆道造影)によってなされる。超音波検査の診断能は胆囊胆石より劣る。治療には総胆管切開截石と胆囊摘出の手術が行われる。場合によっては,外科手術をせずに,内視鏡的乳頭切開による胆管胆石除去が行われる。
(3)肝内胆石症 原発性と続発性に分類される。肝内胆管に胆石が原発する場合を原発性といい,胆石の発生要因が肝内胆管の先天的な形態異常に求められることが多い。続発性とは,肝外胆管の胆石に続発し,肝内にまで胆石が及んだ場合を指し,胆管胆石のより進行した型である。頻度は低いが,肝内胆石は難治性である。続発性では予後が不良であり,できるだけ胆石の除去を図る。原発性では予後は必ずしも不良ではなく,対症療法ですませることも多い。
→胆囊造影
執筆者:大野 孝則
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出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
…体内で排出物や分泌物の成分が固まって堅い固形物を形成したものをいう。胆囊および胆道系にできる結石は,胆汁の成分であるコレステロール,ビリルビンカルシウムおよび炭酸カルシウムの組み合わさったものでできており,一般に胆石と呼ばれている。胆汁成分の異常,胆汁鬱滞(うつたい)および感染が加わった場合などに発生する。…
… 胆管の病気の代表的なものは胆管結石であり,次いで胆管癌,胆管炎などが問題となる。胆管で初めからつくられる胆石はビリルビンカルシウム石であり,コレステロール石が存在する場合は,胆囊でつくられたものが胆囊管を通って排出されて生じたものである。胆管に存在する石は,痛み,発熱,黄疸などの症状をおこすことが多い。…
※「胆石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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