内視鏡的粘膜切除術および内視鏡的粘膜下層剥離術

六訂版 家庭医学大全科 の解説

内視鏡的粘膜切除術(EMR)および内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
(食道・胃・腸の病気)

 1980年代に登場した内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、診断のための切除から根治のための切除へと、内視鏡治療の分野に大きな変革をもたらしました(図24)。より安全で簡便なさまざまなEMR手技が次々と報告されるようになり、当初は1㎝以下の小さな病変のみが対象でしたが、徐々に大きな病変に対しても施行されるようになってきました。しかし、技術的な限界から1㎝を超える病変を確実に一括切除することは困難で、分割切除が許容されていました。ところが、分割切除後に約12%の局所再発があることがわかってきました。

 1998年に、IT(絶縁チップ)ナイフを用いた内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)が臨床応用され、一括切除率が飛躍的に向上したことから、早期胃がんの約半分は内視鏡での切除(=根治)が可能となりました。2006年4月の診療報酬改定によって、「胃の早期悪性腫瘍(しゅよう)に対する内視鏡的粘膜下層剥離術」が保険適応になり、ESDが社会的にも認知されるようになりました。

 内視鏡的切除は、リンパ節郭清(かくせい)が不可能であるため、根治できる病変はリンパ節転移がないことが外科手術と大きく異なるところです。しかし、残念ながら、術前に早期胃がんのリンパ節転移の有無を正確に評価することはできません。

 臨床においては、切除後に深達度(がんの深さ)や脈管侵襲(しんしゅう)(リンパ管や静脈へのがんの浸潤(しんじゅん))の有無など、リンパ節転移に関係している因子を病理組織学的に評価することによって、「リンパ節転移の可能性が極めて低いがん」=「リンパ節郭清の必要がない局所切除で根治可能ながん」であることを確認しなくてはなりません。根治という観点から、“切除ができる”と“根治できる”を明確に理解したうえで治療方法を決定する必要があります。

 ESDを行うにあたって、術中偶発症穿孔(せんこう)出血)の頻度はEMRと比較すると高率で、知識と対策も含めた内視鏡技術の習得が不可欠となります。ESDは技術的な煩雑さから完成された手技とはいいがたく、今後もより安全・簡便な手技への進化が望まれる技術です。

 内視鏡的切除といえども、最終目標は根治であることを念頭に置いた術前検査と治療方針の決定、切除後の適切な判断が必要となります。医療者も医療を受ける側も簡単・安易に考えるべきではないことを理解するべきです。したがって、「胃癌治療ガイドライン」に基づいた胃がんの進行度による治療適応の説明がなされ、同意を得る手続き(インフォームド・コンセント)の過程なかで治療方針が選択されていくべきものです。

 胃がんと告知された場合、以下の項目をしっかり確認しておく必要があります。

□術前の診断が早期胃がん、特に粘膜に限局したがんである可能性が高いか?

□生検による組織型が分化型がんであるか?

□病変の大きさは?

□病変の部位は?

□治療方法はEMRなのか? ESDなのか? 腹腔鏡手術なのか? 開腹手術なのか?

□内視鏡的切除であれば一括切除できるのか?

□治療のリスクは?(偶発症とその対策)

□内視鏡的切除後の病理組織結果は?(深達度、組織型、大きさ、脈管侵襲の有無、潰瘍の有無、切除断端など)

□最終的根治度は?(治癒切除、非治癒切除、判定不能)

□その後の治療方針は?(外科手術が必要なのか)


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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