企業が事業目的の達成のため、組織を整備・運用すること。具体的には、業務の有効性および効率性、財務報告の信頼性、事業活動にかかわる法令等の遵守ならびに資産の保全の四つの目的が達成されるように業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいう(2005年に企業会計審議会が公表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」より)。
内部統制が必要とされる背景には、規制緩和が進み自己責任に基づく経営へと社会的枠組みが変わったこと、急速な経済変化や技術進歩、事業の国際化などにより企業を取り巻くリスクが増大、多様化したこと、終身雇用の終焉(しゅうえん)や雇用の流動化が進み、従業員間の暗黙の了解や信頼関係に依存した経営管理のあり方に限界が生じてきたことなどがあげられる。
[中村義人 2022年11月17日]
日本の内部統制の制定は、アメリカの規制のあり方から大きく影響を受けている。アメリカにおいては、1980年代、不安定な経済状況のなかで、多くの企業における違法支出や粉飾決算等の不祥事が問題となった。そのため、1987年10月に会計5団体(アメリカ公認会計士協会=AICPA、アメリカ会計学会=AAA、内部監査人協会=IIA、管理会計士協会=IMA、財務担当経営者協会=FEI)からなるトレッドウェイ委員会支援組織委員会The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission(略称、COSO)が発足した。そして、トップ・マネジメントは、不正な財務報告を防止または摘発することの重要性を認識し、財務報告に関する総合的な統制環境を確立することが必要であると指摘した報告書を公表し、その後1992年「内部統制の統合的枠組み」(COSO報告書)を公表した。
COSO報告書において、内部統制は業務の有効性と効率性、財務報告の信頼性、関連法規の遵守の三つからなることが明確にされた。これは今日の日本の内部統制制度の基となった。内部統制は企業の事業活動のすべてについて導入すべきシステムであり、計画・実行・評価というプロセスに従って実施されなければならない。さらに内部統制は業務とは別な組織ではなく、業務につけ加えられるものでもなく、業務そのものに組み込まれるものであり、事業体の目的達成に直接影響を与えるものである。すなわち、内部統制は経営の質ということができ、経営目標の達成のためには内部統制という高い質の経営をもつことが必要となる。
しかし、その後アメリカにおいては、2001年から2002年にかけて総合エネルギー会社のエンロンや通信会社のワールドコムなどの巨大会社が粉飾決算で倒産に追い込まれ、これらの事件をきっかけとしてアメリカの株価は下降し、アメリカ企業に対する不信感が高まった。さらに、エンロンの監査を担当していた世界5大会計事務所の一つであったアーサー・アンダーセンがまたたくまに破綻(はたん)した。そこで、アメリカは金融市場に対する信頼を回復させるため、2002年「企業改革法」Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002を成立させた。この連邦法は、上院議員ポール・サーベンスPaul Sarbanes(1933―2020)、下院議員マイケル・G・オクスリーMichel Garver Oxley(1944―2016)が提出した法案を両院別々に可決したものを、その後一体化させたものであるため、両者の名前をつけて、「サーベンス・オクスリー法」または「SOX(ソックス)法」とよばれている。
企業改革法は、不正会計や監査問題により、大きく傷ついたアメリカの企業や金融市場の信用を回復させるため、監査制度、コーポレートガバナンス(企業統治)、ディスクロージャー(企業情報開示)などに関する抜本的な改革を行うことを目的としており、とくにSOX法第404条において経営者は内部統制を適切なフレームワーク(経営方針)に従って文書化し、それに基づく内部統制の整備状況や運用状況を評価し、外部監査人の内部統制監査を受けることを規定している。
[中村義人 2022年11月17日]
企業の経営者は、これまで以上に経営の透明性と信頼性を高める社会的責任が生じてきており、このような変化に対応して会社法(2006年5月1日施行)では、経営者に対して内部統制の整備を義務づけた。すなわち、取締役に対し職務の執行が法令および定款に適合した体制や適正な業務を確保するために必要な体制を整備するように規定した(会社法362条4項6号)。この体制の整備とは、具体的には取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制(コンプライアンス)、取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制(情報管理)、損失の危険の管理に関する規定その他の体制(リスク管理)、取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(内部監査)などである(会社法362条5項)。
一方、金融庁はアメリカをはじめとした諸外国における内部統制の基準の内容を検討するとともに、国際的整合性にも配慮し、日本の実情にあった基準のあり方について審議を行い、2005年(平成17)12月「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」を公表し、日本の内部統制の基本的枠組みを明らかにした。その内容はアメリカで行われている内部統制と同じ目的・要素に一部追加したものとなっており、基本的に内部統制の四つの目的、すなわち(1)業務の有効性および効率性、(2)財務報告の信頼性、(3)事業活動にかかわる法令等の遵守、(4)資産の保全、を達成するため企業内のすべての者によって遂行されるプロセスとした。アメリカの内部統制の目的は、前記の(1)から(3)の3項目であるが、日本では資産の取得や使用が適切な手続のもとに行われることが重要であると判断して(4)を追加した。
そして、2008年4月1日以降に終了する事業年度から、内部統制の構築と運用が義務化された。すなわち、上場会社は、事業年度ごとに会社の財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した内部統制報告書を有価証券報告書とあわせて内閣総理大臣に提出しなければならない(金融商品取引法24条の4の4)。また、内部統制報告書には、公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならないこととされた(同法193条の2第2項)。この内部統制報告書には、内部統制の基本的枠組み、評価の範囲・基準日および評価手続、評価結果などに関する事項について記載することとされている。
[中村義人 2022年11月17日]
『中村元彦編著『中小上場会社の内部統制――実務上の課題と提言』(2020・同文舘出版)』▽『日本経営調査士協会編、箱田順哉・小出健治他著『これですべてがわかる内部統制の実務』第5版(2021・中央経済社)』▽『打田昌行著『令和時代の内部統制とリスクコントロール―リモート環境に対応したローコストなアプローチ』(2021・翔泳社)』
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