金融商品取引法(読み)キンユウショウヒントリヒキホウ

デジタル大辞泉 「金融商品取引法」の意味・読み・例文・類語

きんゆうしょうひんとりひき‐ほう〔キンユウシヤウヒンとりひきハフ〕【金融商品取引法】

証券取引法金融先物取引法などを整理統合して、多様化する金融取引に対応し、国民経済の健全な発展と投資者の保護を目的として定められた法律。投資ファンドの特権を規制し、株式公開買付制度の見直し、大量保有報告書制度の見直し、インサイダー取引・時間外取引など不公正な取引に対する罰則を強化、上場企業の四半期業績の開示の義務づけなどを定める。平成18年(2006)成立。翌年施行。金商法。
[補説]平成21年(2009)の改正で、格付け会社を登録制とし、金融庁の監督下に置くことが定められた。これは、2008年の世界的金融経済危機の発端となったサブプライムローン問題で、格付け会社が住宅ローン担保証券のリスクを過小評価していたことが一因とされることを受けて、欧米諸国と協調する形で実施された。同改正では他にも、利用者保護・公正で利便性の高い市場基盤の整備などの観点から、金融分野における裁判外紛争解決制度(ADR)の創設、金融商品取引所商品取引所の相互参入容認などの措置が講じられた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「金融商品取引法」の意味・わかりやすい解説

金融商品取引法
きんゆうしょうひんとりひきほう

意義

投資者の保護および国民経済の健全な発展に資するために金融商品市場を規制する法律。金融・資本市場をとりまく環境の変化に対応し、利用者保護ルールの徹底と利用者利便の向上、「貯蓄から投資」に向けての市場機能の確保および金融・資本市場の国際化への対応を図ることを目ざして、従来の「証券取引法」(昭和23年法律第25号)が大きく改正され、法律名も改称された。英語名称はFinancial Instruments and Exchange Act。2006年(平成18)6月14日公布。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

歴史

金融商品取引法制定に至るまでの歴史

日本の証券取引の法的規律は、1893年(明治26)制定の「取引所法」による規制に始まる。取引所法は、取引所の組織と取引を規制するもので、情報開示の強制はなく、投機取引が横行するなか、証券市場を機能させるには不十分であった。

 「証券取引法」は、第二次世界大戦前の証券関係法規(取引所法、有価証券業取締法、有価証券引受業法等)による諸制度を統合し、アメリカの1933年の「証券法」Securities Actが定めている有価証券の発行市場における開示制度(ディスクロージャー制度)や、1934年の「証券取引所法」Securities Exchange Actが定めている流通市場における継続開示制度等を取り入れ、1948年(昭和23)に制定された。ただ、当時の法制定は占領政策下においてなされたために、証券取引委員会を設置して監督権限を付与するなど、アメリカの法制度を模すという性格を色濃く反映していた。1952年に初めて法改正が行われ、以降、日本の実情とその後の資本市場の発展に応じた改正が重ねられた。

 証券取引法は名称が示すとおり、法律上列挙された有価証券の取引を規制するのみであった。しかし、このように狭い適用範囲では、金融改革の所産として生み出されるさまざまな金融商品をカバーできない。そこで、有価証券概念の限定列挙を改め、横断的な有価証券概念を導入し、証券の組成から償還までを包括的に規制することにより適用範囲を拡大することが模索された。イギリスでは1986年に制定された「金融サービス法」Financial Services Actが広範な適用範囲を擁しており、これに倣った改正論議が進んだ。

 この改正論議の成果の一つとして、2000年には「金融商品販売法」(平成12年法律第101号)が制定された。同法は「金融商品」に適用されるという点では横断的な法律ではあったが、金融商品の販売と勧誘の側面をカバーするにすぎないために、包括的な法的規律とはいえなかった。

 また、投資家から資金を集めて専門家が運用するスキーム、すなわち「投資ファンド」や「集団投資スキーム」についても適用されるルールがなかった。さらに、2002年前後に外国為替(かわせ)証拠金取引(FX取引。少額の証拠金を差し入れて、二つの国の通貨の為替相場を予測して、多額の通貨の売買を行う金融商品)をめぐって、投資経験の少ない高齢者が大きな損失を被るケースが続出した。当時、FX取引には適用される法律もなく、監督官庁もなかったため、実効的な被害者救済策が乏しかった(なお、2004年に金融先物取引法が改正され、この点の対応が図られた)。このような諸問題の発生を経て、日本版の「金融サービス法」制定の機運が高まった。

 具体的審議は金融審議会金融分科会第一部会で行われ、2005年10月に「中間整理」が公表された。そこでは「適正な利用者保護を図ることにより、市場機能を十分に発揮しうる公正・効率・透明な金融システムの構築を目的として、証券取引法を改組し、投資サービス法を制定することが適当である」とされた。その後の審理を経て、2005年12月に「投資サービス法に向けて」と称される報告書が公表された。この報告書を受けて、「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)および「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成18年法律第66号)が成立し、これらにより、従来の「証券取引法」は「金融商品取引法」に改称された。

 同法には、以下のような特色がある。

(1)横断化 前記のとおり、従来の証券取引法の適用対象としてこなかった集団投資スキーム等にも規制範囲を及ぼしている。

(2)柔軟化 投資のプロである特定投資家と投資のアマチュアである一般投資家を分け、プロに対しては投資者の保護に関する規制を一部緩和する。

(3)開示制度に関する改正 公開買付・大量保有報告書制度改正、内部統制報告書制度(日本版SOX(ソックス)法)、四半期報告書の法定化等。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

金融商品取引法制定後の改正の歴史

金融商品取引法は取引環境が変化するにつれ、投資者の保護と国民経済の健全な発展の観点から、ほぼ毎年のように法改正がなされている。そのうち主要なものとして、以下のものがあげられる。

 2009年改正では、金融ADR制度(金融サービスに関する紛争を裁判外で解決する制度)の新設などがなされ、2011年改正では、ライツ・オファリングrights offering(株式会社が既存株主に対し新株予約権を無償で〈対価なしで〉割り当てる増資方法)を可能とするための開示制度の整備などがなされた。2013年改正では、前年に発覚した公募増資インサイダー取引事件(会社が公募増資を行う前に、証券会社が顧客に増資情報を提供し、高値のうちに株式を売却させた事例。公募増資前に発生した不可解な株価下落がきっかけで発覚した)を受けてインサイダー取引(内部者取引)規制の改正などがなされ、2014年改正では、クラウドファンディング(新規・成長企業等と投資家をインターネット上で結び付け、多数の者から少額ずつ資金を集める仕組み)を可能とする制度整備などがなされた。2017年改正では、高速取引(高頻度取引ともいう。有価証券の取引などをコンピュータにより自動的に行い、取引情報が金融商品取引所へ、通常よりも短い時間で伝達されるもの)への対応、上場会社における公平な情報開示(フェア・ディスクロージャー・ルール)の導入などがなされた。そして、2019年(令和1)改正では、暗号資産デリバティブ取引(暗号資産を原資産とするデリバティブ取引。暗号資産は当初、仮想通貨とよばれ、金銭にかわる支払決済手段として機能することが期待されたが、金銭との価格差を利用した投機の手段となってしまい、仮想「通貨」という名称が適さなくなったことから、暗号資産に名称を変更した)と投資性ICO(ICO=イニシアル・コイン・オファリングinitial coin offering。企業がトークン〈証票〉とよばれるものを電子的に発行して、投資家から通貨や暗号資産を集める資金調達手段)を金融商品取引法の適用対象として投資者の保護を図る改正がなされるなど、改正は今後も続いていくものと思われる。

[武田典浩 2020年7月21日]

金融商品取引法の目的と体系

金融商品取引法は、(1)企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、(2)有価証券の発行および金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、(3)もって「国民経済の健全な発展」および「投資者の保護」に資することを目的とする(金融商品取引法1条。以下の条文番号は、とくに補足のない限りすべて金融商品取引法をさす)。

 この(1)~(3)の位置づけについては、(1)は法の目的を達成するための方策、(2)は(1)の方策により実現される具体的な目的、(3)は(1)と(2)により達成される法の究極的な目的、であると理解されている。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

金融商品取引法の概要

適用範囲

金融商品取引法は、有価証券取引とデリバティブ取引とに適用される。「有価証券」には、証券・証書が発行されるもの(国債証券、社債券、株券、新株予約権証券、優先出資証券、受益証券、抵当証券、預託証券など。2条1項)と、証券・証書が発行されないもの(みなし有価証券。振替社債、振替株式、電子記録債権、信託受益権、合名会社等社員権、集団投資スキーム持分(もちぶん)など。同2項)とがある。デリバティブ取引とは、デリバティブ取引の原資産を意味する「金融商品」(有価証券・預金に基づく権利・通貨等。同24項)および金融指標(同25項)の先物取引、オプション取引、スワップ取引、クレジット・デリバティブのことをいう(同20項~23項)。

 他の業法で手当てされている投資性の高い預金、保険商品、商品先物取引、不動産特定共同事業契約等は、金融商品取引法の適用対象ではない。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

企業内容等の開示

金融商品取引法は、企業内容等の開示として、発行開示の規制(金融商品取引法第2章。4条以下。有価証券届出書の提出や目論見書(もくろみしょ)の交付等)、継続開示の規制(第2章。24条以下。有価証券報告書、半期報告書、四半期報告書、臨時報告書の提出)がある。また公開買付に関する開示(第2章の2。27条の2以下)や株券等の大量保有の状況に関する開示(第2章の3。27条の23以下)の規定がある。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

不公正な行為の規制

金融商品取引法は、詐欺的行為を禁止する包括規定(157条)、風説の流布・偽計・暴行または脅迫の禁止(158条)、相場操縦行為等の禁止(159条、160条)、インサイダー取引の禁止(166条、167条)等を定めている。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

金融商品取引業者・金融商品取引所の規制

金融商品取引法が業規制の対象とする「金融商品取引業者」には、第一種金融商品取引業(流通性のある商品・デリバティブの販売・勧誘。28条1項)、第二種金融商品取引業(流通性の低い商品の販売・勧誘。同2項)、投資助言・代理業(同3項)、投資運用業(同4項)がある。

 金融商品取引業者は、参入規制として、業ごとに異なる財産や兼業に関する一定の要件を満たして内閣総理大臣の登録を受けなければならず(29条、29条の2)、行政監督に服し、行為規制(誠実公正義務〈36条〉、書面交付義務という形式での説明義務〈37条の3〉、不当勧誘や損失補填(ほてん)等の禁止〈38条、39条1項〉、販売勧誘規制〈40条〉)が適用される。

 他方、金融商品仲介業者(2条11項)について、登録制度による参入規制(66条、66条の2)を設け、業務規制(66条の8第1項・2項、66条の11、66条の13)、名義貸の禁止(66条の9)、損害賠償責任(66条の24)を定めている。

 ほかに金融商品取引法は、「金融商品取引所」の設立と組織(2条16項、83条の2)、金融商品市場の開設等に関する規制(80条1項)を設けている。金融商品取引所は、継続的な行政監督に服し(149条以下)、自主規制業務(上場審査、上場会社開示情報審査、会員や取引参加者の法令遵守状況の調査等)を適切に行わなければならない(84条1項等)。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

「適合性の原則」と「特定投資家への適用除外」

「適合性の原則」とは、顧客の知識、経験、財産の状況等に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならないという原則をいい、ある金融商品の投資に向かない顧客に勧誘・販売してはならないという規範が導かれる。この原則に違反する場合には、金融商品取引業者等は不法行為責任を負うことがある(最高裁判所判決平17・7・14、民集59巻6号1323頁)。

 金融商品取引法は、金融商品取引業者等またはその役員・使用人は、契約締結前書面等の交付に関し、あらかじめ、顧客(「特定投資家」を除く)に対して、書面記載事項等について、顧客の属性(知識、経験、財産の状況)および契約締結目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法および程度による説明をすることなく、金融商品取引契約を締結してはならない旨を定めている(38条9号、金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項1号)。これは、前述の狭義の適合性を満たした金融商品であっても、説明義務を果たす場面で顧客の適合性に配慮するものであり、広義の「適合性の原則」を規定したものと解されている。そして、適合性原則をはじめ、金融商品取引業者等に課せられる行為規制のいくつかは、相手方が「特定投資家」(適格機関投資家、国、日本銀行、投資者保護基金その他内閣府令で定める法人。2条31項)、いわゆるプロの投資者には適用されない(45条)。これが「特定投資家への適用除外」にあたる。

[福原紀彦・武田典浩 2020年7月21日]

『福原紀彦著『企業法要綱2 企業取引法――商法(商行為法)等』(2015・文眞堂)』『黒沼悦郎著『金融商品取引法』(2016・有斐閣)』『山下友信・神田秀樹編『金融商品取引法概説』第2版(2017・有斐閣)』『松尾直彦著『金融商品取引法』第5版(2018・商事法務)』『近藤光男・志谷匡史・石田眞得・釜田薫子著『基礎から学べる金融商品取引法』第4版(2018・弘文堂)』『黒沼悦郎著『金融商品取引法入門』第7版(日経文庫)』

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百科事典マイペディア 「金融商品取引法」の意味・わかりやすい解説

金融商品取引法【きんゆうしょうひんとりひきほう】

証券取引法金融先物取引法などを統合し,改正・改称した法律。投資サービス法ともいう。従来の法律の対象にならない新しい金融商品や,複数の法律にまたがる金融商品が登場したことを受けて,2006年6月に成立・公布された。2007年7月施行。株式,債券,投資信託,金融先物,投資ファンド商品などの,元本割れの可能性がある金融商品について,国際化への対応,投資家保護などの立場から,販売・勧誘のルールを定め,透明性・公平性の確保のための情報公開,株式の大量保有報告書制度やTOB制度の見直し,インサイダー取引などの罰則強化が盛り込まれた。銀行法保険業法で規制される〈投資性を有する預金・保険〉などにも金融商品取引法の販売ルールが準用される。2008年改正では金融市場の国際競争力強化を目指す改正がなされた。銀行と証券,保険会社間で役員の兼任を認め金融グループ経営の自由度を高める一方,顧客が不利にならないよう,情報管理の徹底も求める。業務の多様化では,企業再生のための銀行の株式保有制限を緩めるほか,温室効果ガスの排出量取引もできるようにした。投資商品では,上場投資信託(ETF)の商品数などが増やせるようにした。投資判断能力が高い金融機関や地方自治体などに参加を限定した高リスクの〈プロ向け市場〉もつくれることになった。公正な市場の構築のため,課徴金の水準を約2倍に引き上げて,インサイダー取引や相場操縦,開示書類の虚偽記載といった不正行為に対する規制を強化している。2008年秋のリーマン・ショックに端を発する世界金融危機時に金融当局もデリバティブ取引の全体像を把握できず,市場に信用不安が広がったことで危機を深刻化させる一因となったことを受け,2010年改正では金融派生商品(デリバティブ)の監視や証券会社の監督を強化する改正がなされた。金融市場の監督体制を強め,金融危機の再発防止につなげるためで,通常国会に提出して成立後2年で段階的に施行された。取引規模の大きい金利を扱う商品や,債権の焦げ付きに備えるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)について,決済処理を担う清算機関の利用を業者に義務付けた。清算機関は今後,国内で整備されることを想定し取引情報も報告させ,透明性と安定性を高めるとしている。2013年改正では,発表前の企業の重要情報を手に入れ,株を売買する〈インサイダー取引〉の罰則強化の改正がなされた。新たにインサイダー情報を漏らした側も刑事罰(5年以下の懲役)の対象とする。悪質な場合は個人名を公表できるようにした。投資運用会社がうそをついて顧客と契約を結んだ場合は従来の〈3年以下の懲役・300万円以下の罰金〉を〈5年以下の懲役・500万円以下の罰金〉にそれぞれ引き上げた。併せて金融危機の広がりを防ぐため,証券会社などを含めた全ての金融機関に公的資金を投入できるようにする預金保険法も改正した。さらに2013年12月政府の金融審議会は新興企業の資金調達をしやすくして事業の拡大を後押しする支援策をまとめた。支援案は以下のような指摘をしている。上場していない企業などが,インターネットを通じて資金を集めることができる〈クラウドファンディング〉(CF)を導入する。集められるのは年1億円未満で,出資額の上限は1人当たり年50万円にする。非上場の企業の株式(未公開株)の売買もしやすくする。これまでは日本証券業協会が運営する市場でしか取引できなかったが,今後はこの市場を通さずに証券会社が売買を取り次ぐことも認める。企業が新興市場に株式を上場する際の負担を和らげ,上場しやすくする。上場時に義務づけている財務諸表の開示を,5年分から2年分に減らす。さらに上場後,企業が自社の株式を新たに発行し一般投資家に売る〈公募増資〉の規制を緩める。増資を公表した時点ですぐに株式を売れるようにするほか公表前から投資家を勧誘しやすくして出資を募りやすくするなど。これを受けて金融庁は2014年の通常国会で金融商品取引法を改正し2014年以降の実施をめざすとしている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金融商品取引法」の意味・わかりやすい解説

金融商品取引法
きんゆうしょうひんとりひきほう

昭和23年法律25号。幅広い金融商品を対象に,開示制度,取扱業者への規制の枠組みを包括的に設けて,国民経済の健全な発展と投資者の保護に役立てることを目的とする法律。証券取引法を 2006年に全面改正し名称変更した。従来,株券債券などの有価証券は証券取引法,金融先物取引は金融先物取引法,商品ファンド投資は商品ファンド法と,金融商品ごとに法律が定められていたが,これらに該当しない金融商品・サービスや取扱業者が現れ,縦割りの業法の限界が生じていた。そこで 1996年の金融市場改革(日本版ビッグバン)以後,金融審議会などで法整備が検討され,改正が進められた。また,不十分な情報開示,過剰な株式分割など,従来の証券取引法などのすきまを縫った 2004年のライブドア事件も新たな法整備の必要性を認識させた。
金融商品取引法は利用者利便性を向上させるとともに,金融商品などの価格形成の公正さを高めれば,国民がより安心して金融商品等に投資できるようになり,貯蓄から投資への国民資産の流れが促進され,日本の金融・資本市場の発展も期待できるという考えに基づく。特徴は次の 5点である。(1) ファンドの持分を集団投資スキーム持分として包括的に定義し,民法上の組合や商法上の匿名組合など,あらゆる形態のファンドを対象とした。(2) 金融派生商品(デリバティブ)取引の範囲拡大による金融商品・サービスの拡大などをふまえ,投資サービス規制を採用。(3) 四半期開示,財務報告に関する内部統制の強化などの開示制度を整備。(4) 取引所の自主規制業務の適正な運営を確保。(5) 罰則を強化し,罰則の対象を拡大。規制対象となる業者の法律上の名称は証券会社から金融商品取引業者に,取引所の名称も証券取引所から金融商品取引所に変更された。包括的で横断的な法制とするため,金融先物取引法,「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」,「抵当証券業の規制等に関する法律」,「外国証券業者に関する法律」は統合・廃止された。また銀行法保険業法信託業法など 89の関係法律の改正が行なわれた。2008年には課徴金制度の見直しなど,2009年には信用格付業者に関する規制導入など,2010年には店頭デリバティブ取引などの清算機関の利用義務づけなどを目的とした一部改正が行なわれた。

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知恵蔵 「金融商品取引法」の解説

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象に、投資家保護ルールの徹底と利便性の向上や、金融市場の透明化、国際化を促す目的で制定された法律。2007年9月30日に全面施行された。それまで、金融商品を巡っては株式や投資信託などは証券取引法、商品ファンドは商品ファンド法などと別々の法律で規制していたが、証取法の名称を変え、関連法律を改正・統合して、1つの法律で横断的に規制できるようにした。従来の証取法と比べて、信託の受益権や多様なデリバティブ取引なども対象とするなど規制範囲を拡大。さらに、集団投資スキームの持ち分も規制対象に含め、これまで野放しだった投資ファンドは販売、運用会社の名称や所在地などを金融庁に登録・届け出をしなければならなくなった。大型ファンドは有価証券報告書の提出も求められる。これは、ファンドを介在させて自社株売却益を違法に売り上げに計上したなどとして、堀江貴文被告が証取法違反の罪に問われたライブドア事件の影響が大きい。金融商品ごとにばらばらだった販売や勧誘のルールも金商法により統一され、顧客の知識や経験、財産状況、投資目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないなど、業者に厳しい投資家保護策が課せられた。金商法は1986年にスタートした「金融ビッグバン」の総仕上げとなる。政府は、個人が安心して投資できる環境を整えることで「貯蓄から投資へ」の流れが進むと期待している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象として、投資者保護ルールの徹底、利用者利便の向上、市場機能の確保、国際化への対応を目的に制定された法律。投資サービス法とも呼ばれている。2006年6月に、従来の証券取引法を改正する形で成立・公布された。主要部分の施行は、07年7月が有力視されている。金融商品取引法は、幅広い金融商品を横断的に規制するため、従来の証券取引法と比べて、信託の受益権、抵当証券、集団投資スキーム持ち分、各種デリバティブ取引などに規制対象が拡大された。特に、集団投資スキーム持ち分が規制対象とされたことから、各種の投資ファンドの募集・販売・運用などに対して、金融商品取引法に基づく開示規制、販売・勧誘規制、運用規制、登録・届け出義務が課される意義は大きい。他方、預金、保険、商品取引所法に基づく商品先物については、金融商品取引法の適用対象とはなっていない。そのほか、上場会社に対する四半期報告書・内部統制報告書制度の導入(08年4月以後開始する事業年度から適用)、公開買い付け制度・大量保有報告書制度の見直し、相場操縦・インサイダー取引規制違反等に対する罰則強化なども盛り込まれている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融商品取引法

証券取引法などこれまで複数の法律で規制されてきた金融商品の販売や投資関連サービスおよび有価証券の発行や流通に関わる法人などについて、機能が同じものには同じ規則・規制を適用し、また投資家保護のために販売、勧誘、投資助言などを包括的に規制するための法律。2006年6月に成立、07年9月30日施行された。この法律により、商品ごとに縦割りであった規制が、リスク性のある金融商品については横断的な規制となる。その他にも、企業の内部統制に関わる部分が「日本版SOX法(企業改革法)」とも言われるように、内部統制の適正化、四半期報告制度の導入、投資ファンドの規制、株式公開買い付け(TOB)制度の見直しなど、非常に多岐にわたる内容を包括的に網羅している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

株式公開用語辞典 「金融商品取引法」の解説

金融商品取引法

金融商品取引法とは、さまざまな金融商品について開示制度、取扱業者に係る規制を定めることなどにより、国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目指した法律です。立案段階では「投資サービス法」と呼ばれていました。従来、株券や債券など「有価証券」については、証券取引法、金融先物取引については金融先物取引法など、金融商品ごとに法律が定められいましたが、従来の枠組みに当てはまらないさまざまな金融商品や、それらを取扱う業者が登場していることなどから、幅広い金融商品を包括的に対象とする新しい法律の枠組みが求められていました。金融商品取引法は、証券取引法を母体としながら、以下の改正をおこなって成立しています。
1. 集団投資スキーム(ファンド)も含め、投資性の強い金融商品・サービスについて横断的に対象。
2. 開示制度について、公開買付制度・大量保有報告制度の見直し、四半期開示制度の整備などをおこなう。
3. 「有価証券報告書」など開示書類の虚偽記載および不公正取引などに対する罰則を強化する。

出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報

投資信託の用語集 「金融商品取引法」の解説

金融商品取引法


投資者保護の横断的な法制として、証券取引法を改組し整備された法律。平成19年9月30日施行。金融・資本市場をとりまく環境変化に対応し、金融商品によってバラバラだった法体系を横断的に一つにまとめ、投資家保護ルールを徹底させ、金融商品利用者の利便性を向上させるため、従来の証券取引法が抜本的に見直されてできた法律。平成18年6月7日に成立し、平成19年9月30日に施行された。
金融商品取引法では、株式や債券、投資信託、金融先物取引など元本が保証されていないリスク商品について横断的に共通の販売・勧誘ルールが制定されることになったが、今まで規制の対象外であった「任意組合」や「匿名組合」による投資ファンドや多様なデリバティブ取引も含まれることとなった。また、プロ向けと一般向けの商品類型に応じて、差異のある柔軟な規制である点も特徴となっている。
投資信託では、金融商品取引業に係る広告等の規制や契約締結前書面の交付義務、契約締結時の交付義務等で大きな影響を受けた。

出典 (社)投資信託協会投資信託の用語集について 情報

会計用語キーワード辞典 「金融商品取引法」の解説

金融商品取引法

さまざまな金融商品について開示制度、取扱業者に係る規制を定めることなどによって、国民経済の発展や投資者の保護のために資することを目指した法律です。

出典 (株)シクミカ:運営「会計用語キーワード辞典」会計用語キーワード辞典について 情報

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