改訂新版 世界大百科事典 「分離育種」の意味・わかりやすい解説
分離育種 (ぶんりいくしゅ)
breeding by separation
品種改良の手法の一つ。栽培されている農作物,家畜の在来品種は,多少とも遺伝質が違う個体が混ざって雑ぱくな個体群を形成している。このような個体群の中から特定の好ましい遺伝質をもつ均一な個体(群)を選抜したり,あるいは逆に不良な遺伝質を除去したりして新品種を作りだす育種方法である。この育種法は他の育種法よりも古くから利用されて大きな成果を上げてきたが,その科学的根拠はW.L.ヨハンセンの純系説(1903)によって与えられた。その後近代遺伝学の発展は他の育種法の飛躍的な発展を促し,分離育種法に取って代わるようになった。しかし分離育種法で用いられる選抜操作はそのまま新育種法の中にさまざまな形で取り入れられ,それぞれの育種法の発展に大きく寄与してきている。たとえば,導入育種を実施するときや,いずれの育種法を用いる場合にも新品種の育成後,その品種特性を維持するときに,分離育種法の操作はひじょうに有効である。
分離育種法は純系選抜法,集団選抜法,栄養系分離法に分けられる。純系選抜法はおもにイネ,コムギなど自殖性作物に適用され,好ましい個体を順次選抜して育成された新品種は一つの純系(自殖した次世代の個体間に遺伝質の変異がほとんどない個体群)になっている。集団選抜法は,集団としての選抜を繰り返すことによって,相対的に均一な個体群を維持,育成していくもので,おもに他殖性作物,家畜の育種に用いられる。栄養系分離法は,ひとたび変異体を選抜し分離させた後は,接木,挿木など栄養繁殖によって維持,増殖させる方法で,果樹,林木その他の作物に用いられる。
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報