一会計期間における企業の純資産の変動額のうち、出資者との直接的な取引によらない部分。ここで純資産とは持分ともいい、貸借対照表の資産から負債を引いた残額、つまり企業の正味財産である。また、出資者(株主)との直接的な取引は「資本取引」とよばれ、増資のような出資者による投資と、配当や自社株買いといった出資者への分配に分けられる。したがって、貸借対照表上の純資産の変動という面からみれば、包括利益は次の式で示される。
包括利益=期末純資産-期首純資産-(出資者による投資-出資者への分配)
包括利益は、同じ利益といっても、伝統的な損益計算書に表示される「純利益」よりも広い概念である。包括利益には含まれるが純利益とは認められない項目は「その他の包括利益」とよばれ、各利益の間には次の関係がある。
包括利益=純利益+その他の包括利益
このような利益概念の拡大が必要になった経緯は以下のように考えられる。企業会計では古くから、資本取引によらない純資産の変動はすべて、損益計算書上の純利益を経由して貸借対照表に計上するのが原則とされてきた。このような純利益と純資産(そのなかの利益剰余金)の連携は「クリーン・サープラスClean Surplus」関係とよばれている。
ところが近年、有価証券やデリバティブ(金融派生商品)といった金融商品に時価評価が導入されたのをきっかけとして、損益計算書を経由しないで貸借対照表の純資産に直接計上される項目が登場してきた。日本でのその代表例は「持ち合い株式」の時価評価差額である。この差額は当期純利益の計算に含められずに純資産に直入される。その結果、損益計算書と貸借対照表との連携が保たれなくなる。両者の連携を保ち、クリーン・サープラス関係を維持しようとすれば、利益計算の範囲を「その他の包括利益」(前記の評価差額など)を含む包括利益にまで拡張することが必要になったのである。
[濱本道正]
『若林公美著『包括利益の実証研究』(2009・中央経済社)』
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