営利を目的とする企業が,経済活動の記録・計算・総括・報告にあたって継続的に適用する会計手続の総称。そこでの会計手続は,組織的記録方法としての複式簿記を採用し,企業資本の投下・回収・再投下過程の計算的追跡を通じて,企業資本を計算的に維持した後の企業利益を期間的に算定することを中心課題としている。したがって企業会計は,それを自己完結的な手段体系として相対化するなら,複式簿記機構の形式合理性を貫徹した資本利益計算の計算構造として特徴づけられるであろう。そのことは,株式会社会計において最も典型的に観察されるところである。
企業利益は一般に,相互に関連する二つの方法によって期間的に算定されている。第1の方法は,貨幣を共通の測定単位としながら,特定時点に企業が所有する財の全体としての価値的大きさを企業資本として確定し,期首・期末の二つの時点の企業資本の大きさを比較して,その増加額を企業利益として算定する。それに対して第2の方法は,特定期間内の市場取引による企業の財の増減変化に起因して企業資本に生じたプラスおよびマイナスの変化を継続的に記録し,両者の記録額を比較して,プラスの超過額を企業利益として算定する。ただし,いずれの方法においても,特定期間内に,企業資本を市場取引を媒介にしないで直接に増減させる元入れや払戻しがあった場合は,当該増減額をそこでの比較計算から排除しなければならない。
企業会計は,複式簿記機構のもとで,市場取引を通じて企業の財に生じる増減変化を継続的,組織的に勘定記録し,各勘定の残高を期間的に集約・均衡させた残高試算表にもとづいて,特定期間の企業利益を,企業資本のストックとフローとの二つの側面から同時に算定する。すなわち,残高試算表を決算残高勘定と集合損益勘定とに分割し,前者によって,企業資本の期末在高から維持すべき企業資本の大きさを控除した後の企業利益を算定・表示し,後者によって,当該企業利益にかかわるプラスの収益フローとマイナスの費用フローとの大きさを算定・表示する。したがって企業会計は,複式簿記機構における貸借均衡の形式的な制約のもとで,上記の二つの方法による企業利益の算定を,みずからの計算構造のなかで,同時に遂行するのである。その場合,決算残高勘定は貸借対照表に要約されて企業の財政状態をあらわし,集合損益勘定は損益計算書に要約されて企業の経営成績をあらわすことになる。それら二つの計算表は,貸借均衡した残高試算表を分割して作成されたことの当然の帰結として,つねに同一金額の企業利益を算定・表示するのである。
ところで,企業会計は株式会社においては,企業資本の大きさを,株主が拠出した貨幣資本の大きさによって計算的に確定する。株式会社は,株主の拠出資本によって,みずからを成立させる基本財産を確保するからである。株式会社の成立時点の基本財産の全体としての価値的大きさが,拠出資本額に一致することはいうまでもない。しかも,株式会社会計が算定する企業利益は,ストックとフローとのいずれにウェイトを置くとしても,株主の拠出資本を計算的に維持した後の分配可能利益の大きさをあらわすことになる。なぜなら,株主は貨幣資本の拠出によって,いわば元本としての基本財産に対してばかりではなく,その果実である当該財産の増加分に対しても持分を確保するからである。そこでの分配可能利益が配当されずに企業に内部留保されたときは,拠出資本とともに株主持分を構成し,計算的に維持すべき企業資本の大きさを増加させる。したがって,株式会社会計は,企業会計の計算構造による資本利益計算にあたって,特定の期間について,期首の株主持分(拠出資本とそれまでの留保利益)の大きさを計算的に維持した後の分配可能利益を算定しなければならない。
株式会社会計は,それらの計算結果を財務諸表に要約して株主に報告する。その場合,株式会社における所有と経営の分離の進展や,株主とは必ずしも利害が一致しない債権者からの長期資金の調達などに起因して,株式会社会計は外部報告会計としての財務会計の諸展開を示すことになる。それは,〈一般に認められている会計原則〉や各種の法令によってそのあり方が制度的に規制され,そのことを通じて一種の社会的制度として成立するにいたるのである。
なお企業会計は,営利を目的とする株式会社だけではなく,公共目的のもとで独立採算的に事業活動を行う各種の公企業にも導入されている。公企業会計は,資本利益計算としての企業会計の特徴を共有する。それは,複式簿記によって事業活動を継続的,組織的に記録・計算し,その結果を損益計算書や貸借対照表に総括して,経営成績や財政状態を報告するのである。
→会計
執筆者:津曲 直躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
営利企業において実施される会計およびそれに関する制度のこと。なんらかの組織体における活動の成果と状態を金額による測定に統一して整理し、一定のルールに従った報告書等にまとめる一連の行為を会計というが、このうち営利企業という特別な組織体における会計に関する理論や実務、ならびにそれらを体系的に規範化した制度を企業会計という。企業会計以外の会計には、非営利組織体としての公会計、公益法人会計などがある。
企業経営に必要な会計は、財務会計と管理会計に大別されることが多い。財務会計は外部報告会計ともよばれ、企業外部の利害関係者(株主、債権者、取引先等)に対して、一定の会計期間における経営成績と財政状態等を、所定の様式に基づいて開示disclosureする会計である。このような会計は、企業の社会的な責任にかんがみて、社会の制度として実施することが義務づけられなければならない。株式市場に上場している会社は、金融商品取引法において有価証券報告書として企業会計の結果と関係資料を公表することとされている。また、上場会社を含む一般の営利企業は、商人として一般的な義務は商法において、さらに株主総会における会計報告責任の履行については会社法において、会計整理の方法や開示の方法などの規定がなされている。なお、このような財務会計のための経常的な会計は、複式簿記の技術を利用して整理される。企業会計を狭く解釈する場合には、このような財務会計をさすことがある。
これに対して管理会計は、企業経営の活動に役だつ会計情報の作成に関する会計領域をいう。経営の行動は諸種の意思決定とその業績の把握の繰り返しである。管理会計は、企業内部の関係者(管理者等)に対して、会計的な視点と手法を駆使して作成した情報を提供するために、企業自らの判断で実施される会計である。財務会計と異なり制度的に義務づけられるものではないが、その活用の成否によって企業価値の創出に大きな影響を与えるものと理解されている。
企業会計に関する基本的なあり方については、1949年(昭和24)に当時の経済安定本部において策定された企業会計原則がある。これは、その後大蔵省内に設置された企業会計審議会に議論の場を移され現在に至っているが、各種の法規範における会計制度の改廃に重要な影響を与えてきた。近年は、会計基準の制定は民間の議論によってなされるべきであるという国際的な判断によって、2001年(平成13)に民間の財団法人として財務会計基準機構が設立され、そのなかの企業会計基準委員会(ASBJ)において、一般に公正妥当な会計基準の制定作業が実施されている。国際会計基準もしくは国際財務報告基準(IFRS)との融合や導入などに関する議論も、この機関の主導によって促進されており、現代の企業会計のあり方にもっとも重要な役割を担っている。
[東海幹夫]
『武田隆二著『会計学一般教程』第7版(2008・中央経済社)』▽『大倉雄次郎著『最新 会計基準の基礎――理論と計算』(2009・税務経理協会)』▽『桜井久勝著『財務会計講義』第11版(2010・中央経済社)』
出典 (株)シクミカ:運営「会計用語キーワード辞典」会計用語キーワード辞典について 情報
…企業会計を研究の対象とする学問分野。企業会計は,企業経営者や企業をめぐる利害関係者の経済的意思決定のために必要な情報を識別し,企業の営む経済活動や諸事象を貨幣単位を用い,固有の方法に従って,記録,分類,計算してその結果を総括し,会計情報としてその利用者に伝達して利用せしめる企業の測定・伝達システムである。…
※「企業会計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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