日本大百科全書(ニッポニカ) 「医療刑務所」の意味・わかりやすい解説
医療刑務所
いりょうけいむしょ
一般の刑務所では収容できない、専門的な医療行為を必要とする受刑者を収容し、治療を行う刑務所。薬物やアルコール依存症、摂食障害の受刑者も収容対象となる。法務省設置法(平成11年法律第93号)に基づいて設置されるもので、法務省矯正局が所管し、医務部のほか、総務部、処遇部が置かれる。全国に東日本成人矯正医療センター(東京都昭島(あきしま)市。八王子医療刑務所が2018年昭島市に移転し、改称)、岡崎医療刑務所(愛知県岡崎市)、大阪医療刑務所(大阪府堺(さかい)市)、北九州医療刑務所(福岡県北九州市)の4施設がある。おもに精神疾患のある受刑者を収容する施設であるが、東日本成人矯正医療センターと大阪医療刑務所は身体に疾病がある受刑者も収容対象とし、受刑者の終末期ケアも行う。医療刑務所に収容された受刑者は、疾患の回復状況にあわせてプラスチック製品の組立てや紙袋製作などの簡易な刑務作業を行うほか、治療効果を高めるための作業療法として、花や観葉植物の栽培や陶芸などの生産作業を行う。なお、1953年(昭和28)から1996年(平成8)まで、ハンセン病患者専用の菊池医療刑務所(熊本刑務所菊池医療刑務支所)が設置されていた。
法務省は「とくに専門的治療を要する者は医療刑務所に収容している」と説明しているが、刑が何十年も執行されずにいる死刑囚の多くが医療刑務所に収容されているという現実がある。無実を訴えて再審を求める死刑囚や高齢で病気がちな死刑囚の刑は執行されにくい傾向があり、高齢化のため医療刑務所に収容されるケースが多いとみられる。帝銀事件の犯人とされた平沢貞通(ひらさわさだみち)(1892―1987)死刑囚、名張(なばり)毒ぶどう酒事件の犯人とされた奥西勝(まさる)(1926―2015)死刑囚らは八王子医療刑務所(当時)で病死したほか、元日本赤軍リーダーの重信房子(しげのぶふさこ)(1945― )が刑期満了の2022年(令和4)5月まで医療刑務所に収監されていた。
[編集部 2024年2月16日]