自由刑(懲役、禁錮(きんこ)、拘留)の執行を受けている者をいう。刑事収容施設法は懲役受刑者、禁錮受刑者、拘留受刑者の自由刑受刑者を総称して「受刑者」と定義している。これとは別に、同法は、(1)刑事訴訟法の規定により逮捕留置されている「被逮捕者」、勾留されている「被勾留者」、その他未決の者として拘禁されている者を総称して「未決拘禁者」とよぶほか、(2)死刑の言渡しを受けて拘置される者を「死刑確定者」とよび、受刑者・未決拘禁者・死刑確定者に対する処遇原則を別個に定める(刑事収容施設法2・30・31・32条)。なお、これらの者等を収容し、必要な処遇を行う施設のことを「刑事施設」といい、刑事施設に収容されている者を総称する場合に「被収容者」とよぶ(同法2・3条)。
刑事収容施設法は、「受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行う」と定める(同法30条)。この処遇原則のもとに行われる処遇は「矯正処遇」と名づけられ、「作業(同法92・93条)」「改善指導(同法103条)」「教科指導(同法104条)」の三つの方法が用意されている。矯正処遇は、個々の受刑者の資質・環境の調査(処遇調査)に基づいて立てられる「処遇要領」に応じて行われるとともに、その効果的な実施を図るために必要に応じ受刑者は集団に編成され、処遇を受ける。
処遇調査の結果、各受刑者には矯正処遇の種類・内容、各人の属性・犯罪傾向の進度から構成される「処遇指標」が指定され、これにより収容される施設と、本人にふさわしい矯正処遇の重点方針が決められることになる。
受刑者には原則として特定の衣料・食料・雑具などが給与され、多くの受刑者は共同室で規則的な生活を営む。懲役受刑者には強制的に作業が科され、その他の受刑者は申し出により作業につく。作業には作業報奨金(賃金ではない)が与えられる。ただし、所内では金銭を所持することが許されないので、入所中は「計算高」として存在し、釈放時に手渡される(もっとも、自弁物品の購入、親族の生計の援助、被害者の損害賠償への充当など、一定の場合には、入所中でも使用することが認められる)。
余暇時間には、読書、各種のクラブ活動、テレビの視聴、ラジオの聴取、宗教教誨(きょうかい)などをすることができる。接見(いわゆる面会)、信書の発信、入浴、調髪の度数、また髪型についても制約があり、禁酒禁煙である。健康保持のため土曜・日曜・祝日等を除き1日30分以上、できるだけ戸外で運動を行う機会が与えられる(同法57条)。あらかじめ定められた遵守事項に違反する行為など反則行為をした者には、懲罰が科されることがある(同法151条以下)ほか、逃走すれば刑法の逃走罪が適用される。
ただし、受刑者は法的保護の外にある者(アウトロー)ではない。立場上、憲法的保障(集会・結社・居住移転・職業選択の自由など)が排除される場面があり、また、表現・通信・学問の自由などは、施設の管理運営、処遇の目的の見地から合理的に必要な範囲で制限されうるが、思想・良心・信教の自由などは、法律による制約も許されない、と解されている。受刑者に対する不当な人権侵害には、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法に基づく法的救済を求めることもできる。
[須々木主一・石川正興]
字義どおりには,刑罰を受ける者として,罰金等の財産刑やかつての身体刑などの対象者も含むが,今日では,自由刑の執行を受けている者をさすのが一般的であり,これに,死刑の言渡しを受けた者や労役場留置の処分を受けている者を加えて,有罪確定後に既決囚として刑事施設たる刑務所に収容されている者の総称としても使われる。この意味における受刑者に関しては,拘禁性の精神病や,刑務所文化などが問題となる。かつては,死刑囚はもちろん,死刑を減じられて使役に服した者も,社会的には死亡したものとみなされ,いわば全権利を剝奪されて国の手にゆだねられた。この状況は,自由刑受刑者にも基本的には引き継がれ,自由拘束の下に無権利状態が原則であった。やがて人権思想や法治国思想の高調に伴い,B.フロイデンタールの《囚人の国法上の地位》(1910)などを通じて,刑事施設での収容関係も法律関係であり,受刑者の権利制限は裁判で宣告された刑罰によるものだけが許されるべきことが徐々に受け入れられていった。しかし,依然として,刑務所収容は特別の権力関係に基づくものであり一般的な権利義務の関係ではないとする考えが根強く,具体的な監獄の処置について裁判で争い,権利侵害の司法的救済を求めることは比較的最近まで否定されていた。
ドイツ連邦共和国では1960年の行政裁判所法によって受刑者による訴訟の可能性が明文で認められ,アメリカ合衆国でも1960年代になって,それまでの〈裁判所は手を触れるな(ハンズ・オフ)原則〉がすてられ受刑者訴訟が拡大していった。受刑者による権利主張はまた,北欧諸国やアメリカにおける囚人組合の結成にもみられる。日本では,一死刑囚の訴えに対する1958年の大阪地裁の判決で,監獄の長の在監者に対する特別権力関係に基づく行為でも,法律に違反し,また監獄の存立目的から合理的に不可欠と考えられる範囲を逸脱した場合には司法救済を求めることができるとされ,新聞紙の閲読,差入禁止を憲法違反とするなど主張の一部が認められた。こうした判例は66年の監獄法施行規則改正による処遇緩和にもつながるが,判例の多くは,拘禁目的の中に犯人の改善,矯正,社会復帰を掲げることで,施設による種々の権利制限を肯定している。自由刑の刑罰内容が何か,どこまでの権利制限を受刑者は忍ばねばならないかは必ずしも明確ではないが,現実の行刑の進展によって,施設拘禁の特殊性は徐々に緩和されつつあるといえよう。
執筆者:吉岡 一男
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