特定の薬物を常用している結果として習慣性、嗜癖(しへき)性を生ずるものを一括して依存性薬物といい、それらによっておこる精神的、身体的変化に伴う障害を薬物依存症とよんでいる。
薬物依存には、〔1〕薬物の効果を欲求して摂取を抑えきれなくなる強迫的欲求を示す精神依存と、〔2〕薬物を摂取しなければ身体が正常に機能せず、薬物を中断すると離脱(禁断症状)が出現する身体依存、および〔3〕薬物の用量をしだいに増やさないと初めと同じ薬効が得られなくなる耐性を生ずる、といった3徴候がある。
依存性薬物は、この3徴候の現れ方によって次のような種類に分けられる。〔1〕3徴候とも強度に現れるモルヒネ型(ヘロイン、コデイン、ペチジンなど)、〔2〕身体依存が強度で精神依存と耐性は中等度であるアルコール・バルビツール酸型(アルコール飲料、バルビツール酸系睡眠薬、抗不安薬など)、〔3〕精神依存だけが強度なコカイン型(コカイン)、〔4〕精神依存と耐性が強度なアンフェタミン型(アンフェタミン、メタンフェタミンなど)、〔5〕軽度の精神依存と耐性を示す大麻(たいま)型(マリファナなど)、〔6〕中等度の耐性と軽度の精神依存を示す幻覚発現型(LSD、メスカリンなど)、〔7〕軽度の精神依存を示す有機溶剤型(トルエン、アセトン、四塩化炭素など)などがある。これらのうち、モルヒネ型、コカイン型、大麻型の3種は国際的に麻薬とされており、3種のどれかを含む生薬(しょうやく)も麻薬に含まれる。日本では法律的には大麻とアヘンは麻薬とは別に扱われているが、行政的にはいずれも麻薬と同様に扱われる。
[加藤伸勝 2019年3月20日]
日本で第二次世界大戦後以降、一貫して問題となっている乱用薬物は覚せい剤であり、刑務所での被収容者において覚せい剤取締法事犯者の割合はもっとも多く占めている。しかし、覚せい剤取締法事犯者の大半が再犯者であることから、再犯防止のために刑事司法制度が役だっていないという批判もなされている。海外の先進国では、薬物問題は犯罪ではなく健康問題として治療や回復支援の対象となっており、犯罪化している国でも刑務所という施設内での処遇ではなく、治療プログラムへの参加を義務づけて社会内で処遇している。日本でも、2016年(平成28)6月より「刑の一部執行猶予制度」が開始され、漸進的に施設内処遇の期間を減らし、社会内処遇(保護観察など)の期間を増やす制度が開始されている。
しかし2000年以降の日本における薬物乱用の実態をみてみると、乱用薬物の主流は少しずつ違法薬物から取り締まりにくい薬物へと移行している。その一つが、精神科治療で用いているベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬であり、もう一つが、規制の網の目を巧みにくぐり抜けた、脱法ハーブをはじめとする危険ドラッグである。こうした状況は、供給低減(規制・取締り)に偏向し、需要低減(再乱用防止、依存症の治療・回復支援)を軽視した日本の薬物対策の課題を如実に示しているといえるであろう。
そのようななかで、日本で薬物依存症からの回復支援を一手に背負ってきたのが、1985年(昭和60)に設立された、薬物依存症の当事者による民間リハビリ施設「ダルク(DARC:Drug Addiction Rehabilitation Center)」である。ダルクは、長期におよぶ入所による共同生活を通じて、薬物を使わない生活習慣を確立することを目ざしており、2018年末時点で国内に80か所の施設が存在している。その一方で、日本には薬物依存症の専門医療機関がきわめて少なく、ダルク以外の選択肢がない状況が長らく続いていた。しかし、アメリカにおける薬物依存症治療プログラムを日本の医療機関の実状にあわせてアレンジした、認知行動療法の手法を活用した薬物依存症集団プログラム(通称「SMARPP(スマープ)」:Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)が、2006年以降国内各地の精神科医療機関や精神保険福祉センターに広がりつつある。なお、このSMARPPは、2016年の診療報酬改定で、日本の保険医療の歴史のなかで初めて、薬物依存症に特化した医療技術として診療報酬算定の対象となった。
[松本俊彦 2019年3月20日]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)
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