改訂新版 世界大百科事典 「単調労働」の意味・わかりやすい解説
単調労働 (たんちょうろうどう)
繰返し的な性格のきわめてつよい労働のこと。労働の単調さは,ひとわたりの仕事の遂行のために割り当てられている時間〈ジョブ・サイクルjob cycle〉によって,ある程度は客観的に把握できる。それが短ければそれだけ何回も,同じ仕事が一定の労働時間内に繰り返されるわけである。単調労働の代表例は,自動車,電機,精密機械,衣服,雑貨,食品などの大量生産工場における組立て,検査,包装などの仕事であるが,単能機械操作の職場にも,高速で情報を処理する機械化された事務所にも,広範に見いだすことができる。ジョブ・サイクルが1分以内という流れ作業も多い。また,単調労働の担い手は,しばしば女子労働者やパートタイマーである。単調労働は,機械化やオートメーション化が不可避的に要請するもので,1950年代後半以降の日本にも広く普及した。しかしこの性格の労働は,仕事に多様性や創造性を求める人間の本性に抵触する〈疎外された労働(疎外労働)〉の極みであるだけに,勤労意欲の低下,職場秩序の動揺,労使関係の不安定などをもたらす大きな可能性をはらんでいる。その可能性は,たとえば,労働時間の短縮や賃金の引上げが労働内容の貧しさを補償するに十分でないとき,やがてはより上位の仕事に変わっていくという展望の閉ざされているとき,完全雇用のなかでこのような仕事だけが唯一の選択ではないと労働者が感じるとき,あるいは学歴水準の向上などによってより〈おもしろい〉仕事をしたいという労働者の欲求が高まるとき,現実としてあらわれる。事実,1960年代末以降の欧米では,単調労働を担う青年労働者たちの無断欠勤,怠業,品質への無関心,組合の公認を受けない山猫ストなどが頻発した。労働者の特質に応じた巧みな労務管理の展開によって,日本ではそれらの現象の発生は今のところ防がれている。しかし単調労働をめぐる生産性と人間性の相克は,これからもなお対応を迫られる深刻な状況にある。
→疎外
執筆者:熊沢 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報