原発性骨髄線維症

内科学 第10版 「原発性骨髄線維症」の解説

原発性骨髄線維症(白血球系疾患)

定義・概念
 造血幹細胞レベルで生じた遺伝子異常により,骨髄において巨核球をはじめとする血液細胞が異常増殖する骨髄増殖性腫瘍である.涙滴状赤血球(tear drop erythrocyte)の出現,白赤芽球症(leukoerythroblastosis),骨髄の線維化,髄外造血,肝脾腫などの特徴的な臨床症状を呈する.
疫学
 比較的まれな疾患である.高齢者に好発し,発症年齢中央値は65歳である.男女比は約2:1と男性に好発する.
病因・原因・病態生理
 エピジェネティックな遺伝子調節を司るTET2,EZH2の変異が10~20%に,サイトカインシグナル伝達に関与するJAK2変異が約50%に,MPL(トロンボポエチンの受容体),C-CBL変異が約5%にみられる(Tefferi, 2010).このうち,病態の中核を形成するのはJAK2変異である.正常造血においては,エリスロポエチン,トロンボポエチン,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などのサイトカイン刺激によりJAK2が一過性に活性化され,サイトカイン依存性の細胞増殖が生じている(図14-10-4).JAK2やMPLに変異が生じると,サイトカイン非依存性にJAK2が恒常的に活性化され,血液細胞は自律増殖能を獲得する.JAK2変異は,原発性骨髄線維症以外に,真性多血症の95%以上,本態性血小板血症の約50%にも認められる.
 血液細胞がクローン性の腫瘍性増殖をきたしているのに対し,本疾患の特徴である骨髄の増生した線維芽細胞は多クローン性である.クローナルに増殖した血液細胞,特に巨核球が産生するTGF-βが骨髄の線維化に,線維芽細胞から産生されるOPGが骨硬化に関与している(図14-10-4).
臨床症状
1)自覚症状:
動悸息切れ・全身倦怠感などの貧血様症状,肝脾腫に伴う腹部膨満感・腹痛,発熱,夜間盗汗,骨痛,食欲低下,体重減少,出血傾向などがみられる.
2)他覚症状:
肝脾腫が約80%に認められる.骨髄線維症は,巨脾をきたす代表的疾患である.ときに門脈圧亢進症をきたし,腹水浮腫が生じる.
検査成績・病理
 貧血を約70%に認める.末梢血には,涙滴状赤血球(変形し涙状となった赤血球)や白赤芽球症(末梢血に赤芽球や骨髄芽球が出現する)などの特徴的な所見がみられる(図14-10-5).LDHは高値を示す.好中球アルカリホスファターゼNAP)値は,JAK2変異がみられる症例では上昇している.
 病初期は前線維期ともよばれ,線維化は認めないか,あってもごく軽度であり,異形成を伴う巨核球の増加を特徴とする.しかし,この時期に診断されることはまれであり,骨髄の線維化が著明となってから診断されることが多い.そのため,骨髄穿刺は採取不能(dry tap)であることが多く,診断のためには骨髄生検が必要となる.骨髄の広範な線維化(細網線維,コラーゲン線維の増生)を伴う巨核球の増殖と異形,骨硬化を認める(図14-10-4).局所的に残存する造血巣は過形成である.腫大した肝,脾では,髄外造血が生じている.
診断・鑑別診断
 骨髄生検により,骨髄の広範な線維化を伴う巨核球の増殖と異形成,骨梁の増加を認める.骨髄の線維化は,慢性骨髄性白血病,骨髄異形成症候群などに伴い生じることもあるので,二次性の骨髄線維症の除外が必要である.Ph染色体やBCR-ABLが検出されないこと(慢性骨髄性白血病との鑑別),赤芽球,顆粒球系に異形がないこと(骨髄異形性症候群との鑑別)は必須である.造血細胞がクローナルな,腫瘍性の増殖をきたしていることを,JAK2変異などにより確認する(Thieleら,2008).
経過・予後
 5年生存率は41%である.感染症,白血化がおもな死亡原因である.
治療
 現時点での唯一の治癒的治療法は,同種造血幹細胞移植である.骨髄の線維化が著明であるにもかかわらず,移植した造血幹細胞は生着可能であり,半数以上の症例で骨髄の線維化が消失する.総生存率は30~67%である.
 薬物療法には,蛋白同化ホルモン,サリドマイドとその誘導体,ヒドロキシウレア,JAK阻害薬などがある.蛋白同化ホルモンは,30~40%の症例に貧血の改善が期待できる.サリドマイドは,約50%の症例に貧血,血小板減少症の改善効果を有する.妊婦には禁忌であり,傾眠,便秘,末梢神経障害などの副作用に注意が必要である.ハイドロキシウレアは,血球数の増加が著明で,そのコントロールが必要な場合や,脾腫に対して使用される.JAK阻害薬であるルクソリニチブは,脾腫や,骨髄線維症に伴う体重減少,食欲低下,不眠症,呼吸困難,倦怠感などを改善する.脾腫に伴う腹部膨満感,腹痛などが著しい場合には,脾照射も行われる.[下田和哉]
■文献
Tefferi A: Novel mutations and their functional and clinical relevance in myeloproliferative neoplasms: JAK2, MPL, TET2, ASXL1, CBL, IDH and IKZF1. Leukemia, 24: 1128-1138, 2010.
Thiele J, Kvasnicka HM et al: Primary myelofibrosis. In: WHO Classification of Tumors of Haematopoietic and Lymphoid Tissues (Swerdlow SH, et al ed), pp40-50, IARC Press, Lyon, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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