旧西ドイツで1957年に睡眠薬として発売され、日本を含む各国で販売された。61年に西ドイツの小児科医が、妊婦の服用で赤ちゃんに手足が短いなどの障害が出ると発表。欧州では同年から回収が始まったが、日本では62年9月からと遅れた。国内の認定被害者は309人。海外で90年代からハンセン病に伴う皮膚病や多発性骨髄腫などへの有効性が注目され、日本では2008年に、他に治療法がないか再発した多発性骨髄腫への治療薬として承認された。
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非バルビツレート系催眠薬として,ヘミー・グリュネンタール社(西ドイツ)で開発され,1956年にコンテルガンの名で市販された。この薬は世界で広く用いられ,日本でもイソミンの商品名で発売された。しかし,間もなく四肢に欠損のある奇形児アザラシ肢症phocomeliaの増加と関係があるのではないかとの疑いがもたれ,61年にW.レンツらにより原因物質として告発され,発売は禁止された。それまで,サリドマイドは鎮静,催眠の目的のほかにも,広く処方され,痛み,咳,不眠症などに使われる複合錠剤中にも使われ,妊婦も手軽に服用していたのである。当時は医薬品の催奇形毒性についてはあまり注意が払われず,それのための試験も十分でなかったのであるが,サリドマイド禍以後,医薬品の発売前の試験が厳しくなった。この薬物によって動物は顕著な催奇形を示すわけでなく,ヒトにみられる四肢奇形はウサギと霊長類にみられるにすぎないが,ヒトでは受胎後21~36日に服用すると,胎児に奇形が生じるおそれがある。催奇形性の機序については葉酸代謝を改変するとするもの,細胞構成成分の変化をきたすとするものなどがあるが,確定されていない。
→催奇形性物質
執筆者:福田 英臣
日本では1959年ころからサリドマイド児が多数誕生し,死亡児を含めて約1200人前後と推定され,西ドイツの5000~6000人についで世界第2の被害国になった。サリドマイド児の誕生は,妊娠中の母親がサリドマイド剤を服用したことに原因する。西ドイツの製薬会社ヘミー・グリュネンタール社によって開発されたサリドマイドは,鎮静剤・催眠薬としてイギリスをはじめ世界各国へも輸出され,サリドマイド禍を生みだした。日本では,大日本製薬が西ドイツの薬事雑誌からヒントをえて製法を開発し,1957年に厚生大臣の承認をえて,翌年から催眠薬〈イソミン〉などとして発売した。しかも医療機関に対してのみならず大衆向け医薬品として大々的に宣伝販売された。もっともサリドマイド剤を製造したのは大日本製薬のほか14社あったが,大日本製薬が圧倒的に市場を押さえていた。日本で多数のサリドマイド児が誕生した背景として,61年西ドイツでW.レンツがサリドマイド剤の催奇形作用について警告を発した後も,なお10ヵ月厚生省・製薬会社が手をうたなかったことがあげられる。
被害者は63年に提訴に踏み切り,名古屋地方裁判所をはじめ京都・東京・大阪など八つの地方裁判所で争われるにいたった。被告は,このサリドマイド剤を製造販売し,サリドマイド児誕生後もなんら措置せずして被害を拡大させた大日本製薬と,かかるサリドマイド剤の製造販売を承認した国であった。この訴訟は薬害訴訟として注目を浴び,薬事行政の責任者としての国がはじめてその責任を問われたという点で画期的なものがあった。訴訟は,被告の国と大日本製薬がサリドマイドと奇形との因果関係を否定したために長びいたが,73年被告が因果関係と責任について争うことをやめると声明したため和解交渉に移り,74年10月26日民事裁判の和解が成立した。和解の条件は,(1)原告被害児ならびに両親をそれぞれA,B,Cの三つのランクに分け金銭賠償する,(2)大日本製薬はサリドマイド福祉センターの基金として5億円を拠出する,といったものであった。とくにこの条件のなかで注目すべきは,被害児の選択によって,金銭賠償を一時金として受け取ることもできるが,また,60年間の物価スライド付年金として受け取ることも認められたという点にある。この点は従来の裁判ではなかったところである。もっとも,このような年金形式は西ドイツやスウェーデンでも採用されたところで,このように身体が原状回復しない場合にはきわめて有効な方法である。
執筆者:下山 瑛二
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(星野美穂 フリーライター / 2009年)
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1957年に西ドイツで開発された非バルビツール系鎮静・睡眠薬。一時繁用されたが、本剤を服用した妊婦からあざらし肢症などの先天性障害児が生まれ、社会問題となり、世界中で製造、販売が禁止された。わが国では1958年(昭和33)発売、62年に出荷停止、販売停止の措置をとった。有名な薬害事件の一つである。
アメリカでは当初医薬品として承認されなかったが、その後の薬効研究で癌(がん)細胞の栄養補給路である血管の形成抑制などが認められ、ほかに治療法のない末期の骨髄腫患者に投与したところ3分の1の患者に改善がみられたことから、1998年10月骨髄腫の治療薬として承認された。副作用の作用機序の研究から新たな薬効が発見された珍しい例である。日本では「日本骨髄腫患者の会」の要望で、条件つきで輸入申請が認められ、厳重管理の下(もと)で使用されていたが、2008年(平成20)10月安全管理の徹底などを条件に、多発性骨髄腫の治療薬としての製造販売が厚生労働省により認可されている。
[幸保文治]
C13H10N2O4(258.23).1950年代末から市販された非バルビツール酸系の睡眠導入剤であるが,強い催奇性(四肢の短縮症)により,数年で市場から姿を消すことになった.グルタミン酸イミドがそのアミノ基でフタルイミドを形成しており,1個の不斉炭素がある.市販されたのはラセミ体であり,その後,薬効の強いR体は催奇性がないとの研究結果も出たが,容易にラセミ化するため,臨床使用はされていない.現在では,立体異性体の存在する薬剤については,有効な異性体を特定し,単一異性体として使用されるのが標準となっている.白色の針状晶.(±)-体は融点269~271 ℃.ジオキサンに可溶,ほかの有機溶媒に不溶.[CAS 50-35-1]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…たとえば,四肢の発生過程では,骨を形成する骨前駆細胞が必要な数の骨原基をつくるが,その形成阻害で骨や指などに欠損の生じることがある。サリドマイド奇形はまさにその例である。(3)異態 前2者とは異なり,この奇形は脊椎動物ではほとんど知られていないが,学問的には重要で興味深いものが多い。…
※「サリドマイド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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