日本大百科全書(ニッポニカ) 「反回神経麻痺」の意味・わかりやすい解説
反回神経麻痺
はんかいしんけいまひ
迷走神経の枝である反回神経の麻痺で、喉頭(こうとう)のおもな筋肉の運動が障害される。迷走神経は延髄の疑核からおこり、頸(けい)静脈孔から頭蓋(とうがい)を出て側頸部から胸郭内部に入り、ここで反回神経が分枝して反転し、ふたたび頸部で喉頭の筋に達する。この長い経路のどこで障害されても麻痺がおこる。とくに左側は大動脈弓を回り、右側よりもさらに長いので障害を受けやすく、左反回神経麻痺が右反回神経麻痺より多い。ウイルス感染、外傷、腫瘍(しゅよう)(甲状腺腫(せんしゅ)や肺癌(がん)など)による圧迫などによるものが多いが、原因不明のことも少なくない。
症状は、片側麻痺では声がかれ(嗄声(させい))、無力性あるいは気息性の声となる。両側性麻痺では嗄声と呼吸障害がおこる。初期には、流動食を嚥下(えんげ)すると気管内に誤嚥しやすい。患側の声帯は正中からすこし開いた位置に固定して、ほとんど動かない。長く経過(6か月から1年)すると、患側声帯はやや萎縮(いしゅく)するが、健側の声帯が発声時に正中を越えて患側の声帯の位置まで動くようになり(代償性運動)、嗄声は改善することが多い。もし代償性運動がよくなければ、手術で患側声帯を正中位置まで移動して固定させると、嗄声は改善する。両側性麻痺の場合には、両側声帯が正中のやや外側で動かなくなるため、声門が狭く、呼吸困難がおこるので、気管切開が必要な場合が多い。声門の狭さが改善しない場合は、手術によって声帯を外側に転移させないと、気管切開口を閉鎖できないことがある。
[河村正三]