反回神経麻痺(読み)はんかいしんけいまひ(英語表記)Recurrent nerve palsy

六訂版 家庭医学大全科「反回神経麻痺」の解説

反回神経麻痺
はんかいしんけいまひ
Recurrent nerve palsy
(のどの病気)

どんな病気か

 発声時には左右の声帯が中央方向に近寄って気道が狭まるので、呼気により声帯が振動して声が出ます。また嚥下(えんげ)時には、嚥下したものが気管に入り込まないように左右の声帯は強く接触して気道を完全に閉鎖します。反回神経麻痺によりこのような声帯の運動性が障害された結果、息もれするような声がれや、誤嚥(ごえん)、むせるといった症状が起こります。

 また、両側の反回神経が障害されて左右の声帯が中央付近で麻痺して動かなくなると、気道が狭くなるため呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)(ぜーぜーした呼吸音)が起こります。

原因は何か

 声帯を動かす神経(反回神経)は脳幹から分かれして頭蓋内から下降してきますが、一度そのまま声帯の横を素通りし、胸郭(きょうかく)内に入り、左側では大動脈弓、右側では鎖骨(さこつ)下動脈の部分で折れ返り、食道の両脇をたどって上行し、甲状腺の裏側を通ったあとに声帯の筋肉を支配するという独特の走行をしています。このため、その経路のどこで障害が起こっても反回神経麻痺が発生します。

 脳幹付近では頸静脈孔(けいじょうみゃくこう)腫瘍、頸部では甲状腺腫瘍、胸部では肺がん食道がん縦隔(じゅうかく)腫瘍乳がんなどの縦隔リンパ節転移、弓部大動脈(りゅう)などによって、反回神経麻痺が起こります。

症状の現れ方

 前記の原因疾患の治療後、たとえば腫瘍が反回神経周囲に浸潤したため神経を合併切除した、もしくは術後の局所の浮腫や循環障害などにより麻痺が発生する場合もありますが、声がれが初発症状で発見されることもあります。したがって、反回神経麻痺と診断された場合には、原因を徹底的に検索する必要があります。

 また、気管内挿管による局所の循環障害によっても生じることがあります。脳幹付近の障害では、舌咽(ぜついん)神経や副神経などの他の脳神経が近くを走行しているので、声がれやむせなどのほかに、声が鼻にもれる、飲み込んだ時に鼻へ逆流してくる(舌咽神経麻痺の症状)、肩が痛い、肩が上がりにくい(副神経の症状)などの症状が合併して起こります。

検査と診断

 ファイバースコープにより声帯の動きを観察することでわかります。その原因が特定できない場合には、頸部、胸部のX線検査やCT、食道造影、上部消化管内視鏡検査などを行います。

 外傷や気管内挿管後に生じた声がれでは、声帯の軟骨(披裂(ひれつ)軟骨)が脱臼している場合があります。この場合、ファイバースコープでは反回神経麻痺と区別がつかないことがあり、筋電図や発声時のX線透視検査を行って鑑別します。筋電図は、麻痺の程度や回復の見込みを判断するうえでも極めて有用です。

治療の方法

 通常、麻痺の発症から6カ月経過しても症状の改善がない場合は、機能改善手術を行います。誤嚥などの症状が強い場合には、その時期を早めることもあります。

 手術には、麻痺した声帯にコラーゲンや脂肪を注入してふくらませる方法と、頸部を切開してシリコン板を挿入するか、声帯を動かす軟骨や筋肉を牽引(けんいん)する方法があります。コラーゲンや脂肪の注入術では、そのあとに注入した物質が吸収される可能性があり、繰り返しの治療が必要な場合があります。外切開による方法では、局所麻酔下に発声させながら、どのくらいまで声の改善が得られるかを確認しながら手術するので、確実性と安定性があります。また、皮膚を美容的に縫合すれば傷もほとんど残りません。

 発声時の左右の声帯のすきまが小さい場合は、音声訓練が有効なこともあります。両側反回神経麻痺による気道狭窄(きょうさく)に対しては、気管切開、片側声帯の外方牽引術などが行われます。

病気に気づいたらどうする

 すみやかに専門医の診察を受け、原因を検索します。原因が見つかったら、その治療を優先し、それがある程度終了した時点で反回神経麻痺の治療を受けることになります。

三枝 英人

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)「反回神経麻痺」の解説

反回神経麻痺
はんかいしんけいまひ

迷走神経の枝である反回神経の麻痺で、喉頭(こうとう)のおもな筋肉の運動が障害される。迷走神経は延髄の疑核からおこり、頸(けい)静脈孔から頭蓋(とうがい)を出て側頸部から胸郭内部に入り、ここで反回神経が分枝して反転し、ふたたび頸部で喉頭の筋に達する。この長い経路のどこで障害されても麻痺がおこる。とくに左側は大動脈弓を回り、右側よりもさらに長いので障害を受けやすく、左反回神経麻痺が右反回神経麻痺より多い。ウイルス感染、外傷、腫瘍(しゅよう)(甲状腺腫(せんしゅ)や癌(がん)など)による圧迫などによるものが多いが、原因不明のことも少なくない。

 症状は、片側麻痺では声がかれ(嗄声(させい))、無力性あるいは気息性の声となる。両側性麻痺では嗄声と呼吸障害がおこる。初期には、流動食を嚥下(えんげ)すると気管内に誤嚥しやすい。患側の声帯は正中からすこし開いた位置に固定して、ほとんど動かない。長く経過(6か月から1年)すると、患側声帯はやや萎縮(いしゅく)するが、健側の声帯が発声時に正中を越えて患側の声帯の位置まで動くようになり(代償性運動)、嗄声は改善することが多い。もし代償性運動がよくなければ、手術で患側声帯を正中位置まで移動して固定させると、嗄声は改善する。両側性麻痺の場合には、両側声帯が正中のやや外側で動かなくなるため、声門が狭く、呼吸困難がおこるので、気管切開が必要な場合が多い。声門の狭さが改善しない場合は、手術によって声帯を外側に転移させないと、気管切開口を閉鎖できないことがある。

[河村正三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「反回神経麻痺」の解説

反回神経麻痺
はんかいしんけいまひ
recurrent nerve paralysis

回帰神経麻痺ともいう。反回神経は迷走神経が胸腔内に入ってから出る運動枝で,下喉頭神経となって多くの枝に分れる。この神経が麻痺すると,その支配域の,輪状甲状筋を除いたすべての喉頭内筋に影響するので,ひどいしわがれ声になったり,声が出なくなったりする。肺,食道,頸部などの悪性腫瘍や,動脈瘤が起因になっていることがあり,まず原因疾患の発見に努め,治療することが重要となる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典内の反回神経麻痺の言及

【声帯】より

…一方,気道系という観点からは,上気道,下気道の中で,声帯に挟まれた声門という部位はもっとも狭いところであるが,吸息時には声帯は外転し,声門抵抗を小さくして効率よく空気を下気道へ送り込む役割を担っている。
[声帯の病気]
 声帯をおかす病気としては,喉頭癌や声帯炎,あるいは声帯結節声帯ポリープといった腫瘤形成を主とした病気などのほかに,声帯を動かす神経の麻痺の一つである反回神経麻痺などがあげられる。これらの病気では,上述した声帯の諸機能が種々の程度で欠落ないし損傷されるので診断の助けとなる。…

※「反回神経麻痺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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