収斂理論(読み)しゅうれんりろん(その他表記)convergence theory

日本大百科全書(ニッポニカ) 「収斂理論」の意味・わかりやすい解説

収斂理論
しゅうれんりろん
convergence theory

もともとは、質を異にするものどうしが、時間の経過につれてしだいに類似してきて、究極的には同じ質のものに帰一していく、という観点から現象を説明している理論。これは初め生物の進化を説明するときに用いられ、さらに文化人類学で文化の変動を進化の視点からとらえる際に使われるようになった。やがてそれは経済学、社会学、政治学などにも転用されるに至り、とくに経済体制、社会体制と産業化(工業化)industrializationをめぐる議論なかで一つの有力な立場を形づくっている。

 それによれば、資本主義体制と社会主義体制は、政治権力機構や経済管理システムやイデオロギーなどで互いに異質なものとして形成されたとはいえ、それぞれの体制のもとで産業化が進み、社会構造が変化してくるにつれて、共通の特徴を帯びるようになり、やがては相互に質の相違を失うに至る。すなわち、資本主義体制は国家の機能を強化して集権化と計画的要素を多分に取り入れざるをえなくなる一方、社会主義体制は分権化と市場メカニズムの導入をせざるをえなくなり、また、両体制ともこれまでその体制を正統化してきたイデオロギーを修正ないし放棄せざるをえなくなり、イデオロギーよりもむしろ科学技術による社会の統合管理が前面に出てくる、と説く。

 また、収斂理論は、社会体制、経済体制の問題に限られず、より広く近代化論のなかでも用いられている。それによれば、人間の諸社会は近代以前においては相互に異質であっても、近代化の過程に入ると互いに類似してきて、一つの共通したコースを走り、そして究極的には同質の社会に収斂する。この理論に対して、それぞれの文化や社会はそれ独自の個性をもち、その進化や発展においても独自の道を歩むということを強調する理論を拡散理論divergence theoryという。

[石川晃弘]

『R・アロン著、長塚隆二訳『変貌する産業社会』(1970・荒地出版社)』『J・T・ダンロップ、F・H・ハービソン他著、川田寿訳『インダストリアリズム』(1963・東洋経済新報社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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