インダストリアリズム(読み)いんだすとりありずむ(その他表記)industrialism

翻訳|industrialism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インダストリアリズム」の意味・わかりやすい解説

インダストリアリズム
いんだすとりありずむ
industrialism

産業主義と訳される。産業化(工業化・インダストリアライゼーション)が完全に達成された社会を想定してC・カー、J・T・ダンロップらが提示した概念発達した産業社会を特徴づけたことばである。産業化(工業化)には資本主義的な路線とか社会主義的な路線とかという多様性があるが、同時にまた社会体制政治体制の違いにかかわりない共通性もあり、その共通性が貫かれることによって、産業化(工業化)が進んだ社会では普遍的諸特徴をもつ社会が形成されてくる。その社会の基礎的な構成原理がインダストリアリズムとよばれる。それは体制の違いを問わず、技術と科学の発達によってもたらされ、次のような社会構造上の特徴を呈してくるという。(1)経済的には、人々の所得が平準化している。(2)政治的には、複数の利害集団によって権力が分有されている。(3)文化的には、イデオロギーにかわって科学が中心となる。(4)社会的には、階層間の格差縮小消滅し、社会移動が頻繁に行われ、平等で多元的な社会が出現する。(5)人々の社会的地位は主として教育と職業選択によって決められる。

 このようなインダストリアリズムがよく機能しうるのは、特定の価値や権力が社会を統合しているような一元的モデルの社会でもなければ、個々人がばらばらに行動しているような原子的モデルの社会でもなく、優れて多元的モデルの社会であるという。その社会では職業的、文化的、組織的にみて利害が多元的に分化している。またその社会では人々の生活水準が高まっており、余暇が増大しており、そして教育水準が向上しているため、個々人の自由も広範囲にわたっているが、他方では、国家による集権的統制と大規模組織による操作が社会を統合していくうえで必要とされ、国家の役割はますます高まるとされる。

 インダストリアリズムはこのような諸特徴を備えた未来社会モデルとして描き出されたが、そこには次のような歴史観上の意義と問題点があった。第一は、資本主義も社会主義も産業社会として成熟すればインダストリアリズムに基づく社会モデルに収斂(しゅうれん)していくということを示唆することによって、「資本主義から社会主義・共産主義へ」というマルクス主義的歴史観にかわる歴史ビジョンを提示したことである。このことは、マルクス主義の側から、生産力主義に基づくブルジョア・イデオロギーだという批判をよんだ。第二は、どんな社会も伝統的社会から産業化(工業化)の過程を経てこの社会モデルに至るという、一線的な進化を前提にした社会発展を想定し、工業化の地域的跛行(はこう)性を軽視して、発展途上国の問題を十分視界に収めえなかったことである。インダストリアリズムが提起されたのは1960年ごろであったが、その後60年代、70年代の工業化は、先進工業国に脱産業化社会の様相をもたらしながら、他面、途上国と先進国との経済的、技術的格差を拡大し、途上国が産業社会として発展する困難さを際だたせた。ここから、インダストリアリズムを前提とした途上国の開発モデルは批判を受けることとなった。

 こうした批判を媒介としてその後さまざまな先進社会モデルが提示されているが、インダストリアリズムの概念がそれらの先駆をなした意義は大きい。

[石川晃弘]

『J・T・ダンロップ、F・H・ハービソン他著、中山伊知郎監修、川田寿訳『インダストリアリズム』(1963・東洋経済新報社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インダストリアリズム」の意味・わかりやすい解説

インダストリアリズム
industrialism

産業主義。生産力水準の高い,発達した産業社会の特徴を示す概念,もしくは農業生産中心的な社会を工業社会へ転換させようとする思想,政策一般をさす。基本的に体制のいかんを問わずインダストリアリゼーションが高度に進むことからくる技術的必然としての社会の構成原理を示す概念として用いられる。 C.カー,J.T.ダンロップ,F.H.ハービソンらが国際比較研究に基づいて,その意味内容を整理したところによれば,工業社会とは内在的に流動性と公開社会への強い傾向性を帯び,都市の支配,政府の広範かつ大規模な活動,さらに巨大組織と高度の技術体系によって特徴づけられる。工業社会の労働力は広範にわたる熟練と専門的能力を要求され,そのために教育制度の発達は絶対不可欠なものとなる。財とサービスの生産は大規模な組織によって行われ,スタッフを含む命令権限を有する者と,この命令に従う機能をもつ者の階統制から成り立つ。さらにその社会には,個人と集団とを一つの総体に統合しようとする共通の観念,信条,価値判断を与えるような,独自の通念を発達させる傾向があると考えられている。

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