翻訳|blowgun
長い筒に詰めた矢を呼気で吹き出して小動物を射る狩猟具。音をたてずに獲物をねらうことができ,森林の中の狩猟に有効であるが,矢が小型軽量であるため,とがった矢先に毒を塗って殺傷力を強化している。マレー半島のセマン族,サカイ族などにみられる吹矢は細い竹でつくられた2~5mの筒と,30cm以上の竹串の矢からなっている。筒には竹の表皮を除いて用い,筒口は樹脂で固められている。矢先にはユーパス(クワ科)の樹液などを煮つめてつくった矢毒が塗られ,矢先が獲物の体内に残るよう矢先の部分に刻みが入れられている。矢尻には漏斗状の矢羽がつけられている。矢は竹製のえびらに入れて持ち運ばれる。30m以上の射程距離があり,鳥,ウサギ,ネズミ,リス,ムササビ,トカゲなどの小動物を捕獲する。同様の吹矢はマレー半島のほか,フィリピン,ボルネオ,スマトラなどに分布している。一方,南アメリカのアマゾン川流域に住むウィトト族やジバロ族では,堅いチョンタヤシの幹の芯をくりぬいたものを2本組み合わせてつくった2~4mの筒が使われている。筒口には骨が使われ,樹脂で固められている。20cm余りの矢はヤシの葉肋(ようろく)でつくられ,矢尻にはパンヤの木からとった綿が付けられ,竹製のえびらに納め,首に下げて運ばれる。矢毒にはストリキノス属の樹液に,つぶしたアリやコショウなどをまぜて煮つめてつくったクラーレが使われている。40m以上の射程距離を持っており,鳥,サル,イノシシ,ナマケモノなどの捕獲に使われる。人間に対して使用することはタブー視されていて,戦闘行為では使われない。この種の吹矢は,アマゾン川流域,コロンビア,ギアナなどの採集狩猟民の間に広くみられる。また北アメリカ東部の森林地帯に住むイロコイ族などの間でも吹矢が使われている。
日本では江戸時代,鷹狩の流行に伴ってタカのえさにする小鳥を捕獲するために鳥刺(とりさし)という職業が成立したが,彼らは吹矢を使って小鳥のみならずガンなどの鳥もとっていた。彼らの使った吹矢は2m前後の竹または木でできた筒と,竹串の先をとがらせて毒を塗り,矢尻に漏斗状の紙を付けた矢からなっていた。
→弓矢
執筆者:小野沢 正喜
日本では,元来小鳥などをとるための実用具であった吹矢が,元禄年間(1688-1704)ころからさらに改良されて遊戯具となった。竹,木,紙ばりなどの筒に紙の羽根をつけた矢を入れ,息をこめて吹き,吹き当てると,的に仕掛けてある人形が降りてくるからくり的の遊びなどが流行し,賭博(とばく)にも用いられた。江戸中期以後には,楊弓場と同じく民衆の娯楽となり,盛り場に吹矢場が現れ,吹き当てると,上下からさまざまの細工物が出るしかけになっていて,明治初年まで流行した。明治期には丸い板に人気俳優や力士名などを書き,これを回転させながら吹矢で命中させ,等級順位によって賞品を出す遊びがあり,さらに街頭で〈どっこいどっこい〉という賭け遊びとなった。
執筆者:斎藤 良輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
吹筒と矢からなり、筒に矢を入れて息で矢を吹き飛ばす道具。筒は節を抜いた竹、アシの茎、くりぬいて中穴にした木などで、ときに2~3段に継ぎ、直径2~4センチメートル、全長は1.5~3.6メートルに及ぶ。矢は竹やヤシの葉肋(ようろく)などを細く削って先端をとがらせ、元には息を受けるための綿、コルク質の木の髄などを取り付けたもので、長さは15~30センチメートル程度である。射程は最大100メートル足らずで、熟達すれば、50メートル前後まではかなり正確に的中させうる。
矢自体は軽く、打撃も小さいが、矢毒を用いることによって効果は著しく増大する。矢毒としては、東南アジアではクワ科の樹皮からとるイポー、南アメリカではツヅラフジ科、フジウツギ科の植物から抽出するクラーレが著名である。矢は使用すると回収が困難で、かつ毒矢の場合、そのまま携行するのは危険を伴うため、十数本から数十本をまとめてケースに入れ、持ち運ぶことが多い。
吹矢は東南アジア、南アメリカの熱帯、亜熱帯森林地域では、狩猟用具として重要で、とくに見通しが悪く、対象への接近が困難な密林で、樹上性の鳥や獣などの狩猟に有効である。また、漁労や戦闘用にもしばしば用いられる。その他の地域、たとえば日本やアメリカの中部以北、ミクロネシア、メラネシアなどでは、吹矢は小鳥の狩猟など限られた目的を除き、むしろ遊びの道具としての性格が強い。
[鹿野勝彦]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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