日本大百科全書(ニッポニカ) 「吹走流」の意味・わかりやすい解説
吹走流
すいそうりゅう
drift current
海面に働く風の力(接線応力、ずり応力)により、海水が引きずられて起きる定常運動。20世紀の初めにこの運動を初めて論じたV・W・エクマンの名を冠して、エクマン吹送流ともいう。海面の水が動くと、海水の粘性(うず粘性)の働きで下の水も引きずられる。この運動に伴ってコリオリの力が生ずる。コリオリの力と粘性抵抗とがつり合っている運動が吹送流である。コリオリの力のため、海面の水は、北半球では風下から45度だけ右に、南半球では風下から45度だけ左にずれた向きに流れる。
吹送流は表層の流れで、高緯度から低緯度に向かって厚くなるが、その厚みは数メートルから数十メートル程度である。この厚み全体としては海水は風下に対して90度右(北半球)、または90度左(南半球)に流れ、その流量は風の応力の大きさに比例する。風の強さは場所によって変わるから、吹送流が運ぶ水量も場所によって変わる。その結果、表層海水は、ある場所では寄り集まり(収束)、別の場所では散り去る(発散)。海水は、収束の場所では下層に沈み込み、発散の場所では下層の海水が湧き上がってくる。吹送流は薄い表層に限られた運動であるが、こうして発散と収束を通じて下層の海水の運動にも関与している。海水を下層から汲み上げたり、下層に押し込んだりしているともいえるので、この働きをエクマンポンプという。下層では植物プランクトンの栄養分が豊富なので、風が発散を引き起こす海域は表層も栄養分が豊かになる。逆に収束海域では栄養分は乏しくなる。太平洋や大西洋の風系の基本は低緯度で東風、中緯度で西風であり、この風系では収束海域が発散海域よりもはるかに広くなり、貧栄養海域が広くなる。
[高野健三]