改訂新版 世界大百科事典 「呼吸機能検査」の意味・わかりやすい解説
呼吸機能検査 (こきゅうきのうけんさ)
respiratory function test
呼吸機能は,最終的にはpH値を含む動脈血組成値が正常範囲に保たれるように働いていれば十分なわけである。しかし,肺は運動時に備えて,機能的に大きな予備能力をもっているので,最大吸息・呼息とか,運動とかの負荷的条件で測定を行わないと,肺,心臓,神経系,筋肉などの病気の診断には役に立たないことが多い。呼吸機能検査の内容は,肺気量分画測定,スパイログラム(スピログラム)spirogram,肺内吸気分布検査,換気力学検査,肺拡散検査,肺血流スキャン,肺胞気・動脈血酸素分圧較差検査,運動負荷試験,呼吸刺激評価目的のP01測定(呼息と吸息の間の口腔内の圧力の測定)など,きわめて多種多様である。実際には,これらの検査のうち症状によって必要なものを選択して行うので,大抵の場合,以上の項目のうち2~3種類ですむことが多い。
肺気量分画測定は種々の肺気量の値を測定するもので,肺繊維症などの拘束性肺疾患では,全肺容量,肺活量,残気量すべて縮小傾向を示す。呼吸筋麻痺では全肺容量,肺活量は減少するが,残気量は正常かむしろ増加する。慢性肺気腫では全肺容量,残気量ともに増加するが,残気量の増加のほうが著しいので肺活量は減少傾向を示す。スパイログラムは,できるだけ息を吸い込んだところから,一気に最大限の努力で最後まで吐ききったときに得られる曲線(最大努力呼出曲線)で,これから最大呼出速度を種々の方法で分析するもので,吐き始めから1秒間に肺活量の何%呼出できるかという値(1秒率)が最もよく用いられる。1秒率は若い人では80%以上,老人では70%以上あればよく,慢性肺気腫,慢性気管支炎,気管支喘息(ぜんそく)などの閉塞性肺疾患では値が低下する。最大努力呼出経過に際して,肺気量に対応する気流量をプロットしたものがフローボリューム曲線で,正常者では呼出直後にピークのある三角形となる。フローボリューム曲線は種々の換気障害の診断に役立つ。とくに,慢性肺気腫や慢性気管支炎のごく軽い時期にみられる細気管支閉塞では,吐き終り近くでの流量減少がみられるのが特徴であるが,フローボリューム曲線では診断しやすい。肺内吸気分布検査は,肺内に通常存在する80%の窒素を100%酸素の吸入によって洗出しを行い,その経過から吸気分布の一様性を診断する検査である。7分間連続して洗い出す方法と,最大呼息レベルから純酸素を最大限に吸入後呼出して,窒素濃度を連続分析する方法とがある。換気の悪い肺胞に由来する呼出肺胞気は窒素が多いので,換気分布の障害があると,7分後に窒素が2.5%以上残る。また酸素最大吸入後の連続分析では,呼息の進行に伴い窒素濃度が500ml当り1.5%以上上昇する。肺拡散検査は,0.2%の一酸化炭素を用い,一酸化炭素が肺胞から肺胞毛細血管膜を通って,肺毛細血管に取り込まれる速度と,分圧差とから,拡散量を計算し,酸素の取り込まれやすさの指標とする。肺胞気・動脈血酸素分圧較差は,呼吸商を仮定し,動脈血ガス分析のみによって間接に求められるのが普通で,この較差の増大は,換気血流比不均等性の増加の指標となる。動脈血ガス分析は,最近では分析器が進歩して,酸素分圧,炭酸ガス分圧,pHを簡単に測定できるようになった。換気力学検査は,肺弾性の指標である肺コンプライアンス,気流抵抗を直接求める検査で,診断的価値は大きいが,鼻からバルーン付きカテーテルを飲ませる必要があるので,行われる場合はあまり多くない。
→呼吸
執筆者:白石 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報