六訂版 家庭医学大全科 「呼吸麻痺を起こす植物毒」の解説
呼吸麻痺を起こす植物毒
こきゅうまひをおこすしょくぶつどく
Plant toxins to cause respiratory failure
(食中毒)
中毒により、さまざまな症状を示す場合がありますが、最終的に呼吸麻痺を起こして死亡するものをこの項目に入れます。
まず、キンポウゲ科の植物には猛毒性のものが多く、なかでもトリカブトとキンポウゲは一般になじみが深いものです。
①トリカブト
この植物は毒草として有名ですが、同じキンポウゲ科のニリンソウやキク科のモミジガサなどとよく似ているので、間違えて食べるケースが数多くあります。
トリカブトの根は、昔から「
ある程度の中毒量を用いた場合、個人差はありますが、まず唇、腹部、皮膚などに
成分的には、ジテルペン系のアルカロイドのアコニチン、メサコニチン、ヒパコニチン、エサコニチンなどを含みますが、毒性はアコニチンで代表されています。加熱などによってエステルが加水分解されると、毒性は百分の1以下に減少します。漢方では、これを利用して加熱減毒した加工附子を用いています。
中毒の対処法としては、胃洗浄、保温、強心剤、マグネシウムやカルシウムの投与などがあります。また、
②キンポウゲ
ウマノアシガタとも呼ばれ、成分としてアネモニンを含み、多量では心臓毒として作用し、心臓の運動機能を停止させます。マウスによる実験では、嘔吐、下痢、血尿、血便、
③シュロソウ、バイケイソウ
ユリ科植物で、かつては血圧降下薬として用いられたこともありました。毒性の強いステロイド系のアルカロイドを含んでいて、大量に摂取すると中枢性の呼吸抑制が起こり、呼吸停止により死亡します。成分であるジェルビンの毒性はアコニチンに匹敵するといわれ、現在は農薬としてわずかに用いられているにすぎません。
ジャガイモの芽生えの部分に含まれるステロイド系アルカロイドのソラニンも有毒性です。誤って食べると嘔吐、下痢を起こし、呼吸困難を起こします。
④ドクゼリ
セリ科に属し猛毒性をもつ植物のひとつで、毒性の強いシクトキシンを含んでいます。主に根に含まれますが、非常に吸収されやすいので、誤って食べると数分後には中毒症状が現れます。口から泡を吹き、中枢神経が侵され、けいれん、めまい、嘔吐、皮膚の発赤が現れ、最後に呼吸麻痺を起こして死亡します。
⑤ドクニンジン
同じくセリ科で、全草に猛毒性のアルカロイド、コニインを含んでいます。まず中枢神経を興奮させ、のちに麻痺を起こし運動神経末梢を麻痺させます。その結果、よだれ、呼吸麻痺を起こして死亡します。歴史的に有名なソクラテスの獄中毒殺では、この植物が使われました。
⑥ハシリドコロ
ナス科の植物には毒性をもつものが多く、日本の山野に自生するハシリドコロは、ヒヨスシアミン、アトロピン(㎗ヒヨスシアミン)、スコポラミンなどのトロパン系アルカロイドを含んでいます。根はロート根と呼ばれて薬用にされますが、山菜の時期に誤って食べると
ヨーロッパでは、古くからベラドンナ、ヒヨス、ダツラ(ヨウシュチョウセンアサガオ)などが鎮痛・
⑦フジモドキ
ジンチョウゲ科に属し、ゲンカニン、ヒドロキシゲンカニンなどを含み、その毒性はトウダイグサ科の
⑧ドクウツギ
山野の荒地に自生し、紅紫色のきれいな実をつけるので誤って食べやすいものです。猛毒性のコリアミルチンやツチンを含み、ピクロトキシン様の作用を現します。
主な中毒症状は
⑨
青酸配糖体それ自体は毒性を発揮しませんが、青酸を遊離するためチトクロームオキシダーゼを阻害し、体内呼吸を止めて死に至らせます。アンズ、ウメ、アーモンド、サクラなどのバラ科植物の果実、種子に含まれるアミグダリンは
その他の青酸配糖体として、キク科のロタウトラリン、マメ科やトウダイグサ科のキャッサバに含まれるリナマリン、またバクチノキに含まれるプルナシンなどがあります。いずれも腸内細菌の
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報