改訂新版 世界大百科事典 「バイケイソウ」の意味・わかりやすい解説
バイケイソウ
Veratrum album L.ssp.oxysepalum Hultén
林間部の明るい場所や草原に生える大型のユリ科の多年草。草丈は1~1.5mほどに及び,長さ20~30cmの楕円形の葉を互生する。7~8月に茎頂に大型の円錐花序をつけ,緑白色の花を密に咲かす。ユーラシア大陸産の基本変種V.album L.(英名white(false)hellebore)は鮮やかな白色の花被片をもち,しばしば栽培される。ともに花被片は6枚で,6本のおしべがある。葯は楕円円盤状のたいへん特殊な形をしている。これはシュロソウ属の特徴である。子房は3室で縮れた毛がある。子房を構成する3枚の心皮は上部で離れており,原始的な状態をとどめている。この性質はシュロソウ属に共通しており,ユリ科の中でも原始的なグループの一つとみなされている。蒴果(さくか)は緑色で長さ約2cm。日本全土に分布し,温帯上部から亜高山帯に及ぶ。中国大陸東北部,東シベリア,カムチャツカに分布する。
近縁種コバイケイソウV.stamineum Maxim.は亜高山帯の湿地の景観を代表する植物の一つで,花被片は白色で美しく,子房に縮れ毛がないので区別される。シュロソウV.maackii Regel var.japonicum(Baker)T.Shimizuはより小型の植物で,花被は暗紫色である。茎の基部にシュロ毛様の繊維が残るので,この名がある。
シュロソウ属Veratrum(英名 (false) hellebore)は北半球に広く分布し,約50種がある。変異に富むグループで,種の分類は難しい。いずれの種もアルカロイド成分を含み,毒性が強い。この成分は薬用に利用されるほか,かつては農地の殺虫剤の原料として用いられた。
執筆者:矢原 徹一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報