日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒヨス」の意味・わかりやすい解説
ヒヨス
ひよす
henbane
[学] Hyoscyamus niger L.
ナス科(APG分類:ナス科)の二年草。ときに一年草となる。ヨーロッパ、北アフリカ、インドに分布し、温帯で栽培されている。茎は高さ80~140センチメートルで直立し、まばらに枝分れする。茎には粘着性のある長軟毛が密生する。葉は互生し、下部の葉には柄があって大きく、長さ30センチメートル、幅10センチメートルに達するが、上部の葉は小さく柄はない。葉は長卵形で浅く羽状に裂け、粘着性のある長軟毛を密生する。花は上部の葉腋(ようえき)につき、短い柄があり、初夏になると横に向いて咲く。壺(つぼ)状、汚黄色の花冠は径約2センチメートルで、先は5裂して開き、紫色の脈をもつ。中心部は紫色である。萼(がく)は先が浅く5裂し、花後は増大して長さ3センチメートル、幅2センチメートルとなり、果実を包む。果実は灰褐色の種子を多数(ときには500個ほど)もつ。
植物全体にアルカロイドを含むが、薬に用いるのは葉で、ヒヨスチアミンを主とするアルカロイドを約0.07%含む。鎮痛、鎮けい剤として喘息(ぜんそく)の発作、モルヒネ中毒などの治療に用いる。中国に分布するのはこの変種であるシナヒヨスvar. chinensis Makinoで、この種子を服用すると正気を失ったようになることから漢名を莨菪(ろうとう)(狂気のさまの意)という。江戸時代の本草(ほんぞう)学者小野蘭山(らんざん)が日本のハシリドコロの漢名にこれをあてたため、現在でもハシリドコロの根茎をロート根と称している。エジプト、アラビア、イランに分布するエジプトヒヨスH. muticus L.の葉をアラビアでは麻酔性酩酊(めいてい)剤として噛(か)んでいる。
[長沢元夫 2021年7月16日]