日本大百科全書(ニッポニカ) 「唯物論と経験批判論」の意味・わかりやすい解説
唯物論と経験批判論
ゆいぶつろんとけいけんひはんろん
Материализм и эмпириокритицизм/Materializm i empiriokrititsizm
レーニン著。マルクス主義哲学、とくに認識論の古典。1908年2月から10月の間に執筆。第一次ロシア革命の敗北後、ロシア・マルクス主義陣営内に、弁証法的唯物論をマッハ主義(経験批判論ともよばれる)によって修正・歪曲(わいきょく)する潮流が現れた。マッハ主義者は、19世紀後半の自然科学上の諸発見、とくに放射能、電子の発見により、当時まで不可分割的で不変なものと考えられていた物質概念が揺らいだことをもって、「物質の消滅」とみなし、唯物論は非科学的で時代遅れの形而上(けいじじょう)学であると批判した。レーニンは、物質の哲学的概念を、個々の物質の形態(原子、電子など)や性質(質量、広がりをもつ)とは区別して、〔1〕感覚において与えられ、〔2〕感覚から独立しており、〔3〕感覚によって模写、反映される客観的実在であると規定し、弁証法的唯物論の基本命題を確立した。
[杉浦秀一]
『寺沢恒信訳『唯物論と経験批判論』(大月書店・国民文庫)』▽『佐野文夫訳『唯物論と経験批判論』(岩波文庫)』