ことわざを知る辞典の解説
喉元過ぎれば熱さを忘れる
[使用例] 咽元通れば熱さ忘れると云う其通りで、艱難辛苦も過ぎて仕舞えば何ともない。貧乏は苦しいに違いないが、その貧乏が過ぎ去た後で昔の貧苦を思出して何が苦しいか、却て面白いくらいだから[福沢諭吉*福翁自伝|1899]
[使用例] 人間の本性からいって喉元すぎれば何とやらで、そうなってから歳出を締め、財政の体質改善をやろうとしても、必ず強い反対が出てくるだろう。そのことを大平は十分に予期していて、自分が将来、どんな地位にいても財政再建だけは〈略〉やりとげたい、と漏らしていた[内橋克人*幻想の「技術一流国」ニッポン|1982]
[解説] ひどく熱いものを口にすると、噛むことも飲み込むこともできなくなって、苦しい思いをします。しかし、いったん喉を通り過ぎてしまうと、まったくその熱さを感じなくなるものです。誰もが体感できる生理現象をたとえにして、説得力のある表現といえるでしょう。ただし、「熱さを忘れる」ことを自然なもの、やむをえないことと受け留めるか、忘れてはならないこととするかは、立場や考え方によって異なり、社会的な文脈にもかかわってきます。多くは体験に学ばない者や恩義を忘れる者を批判して使われますが、少数ながら、「福翁自伝」のように肯定的に使う例もあります。
〔中国〕好了傷疤、忘了疼(傷が治ると痛さを忘れる)
〔朝鮮〕개구리 올챙이 적 생각 못한다(蛙がおたまじゃくしの頃を思い出せない)
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