囊中の錐
すぐれた才能を持つ人物は、たとえ大勢の中にまぎれていても、すぐに目立つことのたとえ。
[使用例] 吉屋さんは正直の処、書きぶりも考え方も女らしく無かったので女子文壇へは滅多に採らなかった。今思えばふくろの中の錐だった。其末を見ることの出来なかったのは私の過失であった[横瀬夜雨*女子文壇の人々|1934]
[由来] 「[史記]―平原君伝」に出て来るエピソードから。紀元前三世紀、戦国時代の中国でのこと。趙という国が、強国の秦に攻められ、都を包囲されてしまったことがありました。このとき、趙の王族の一人、平原君は、楚という国に援軍の派遣を依頼するため、都を脱出することにしました。信頼できる手下たち二〇人だけを連れて行こうとして人選にかかりましたが、二〇人目だけが、なかなか決まりません。そこへ、毛遂という人物が、二〇人目は自分にしてくれ、と名乗り出ました。しかし、平原君は、彼の評判を聞いたことすらありません。そこで、「人間の才能は、『譬うれば錐の囊中に処るがごとし。其の末、立ちどころに見る(たとえるなら袋の中に錐を入れておくようなものだ。とがった先端がすぐさま突き出して来る)』」と述べて、これまで毛遂が才能を発揮することのなかったことを指摘して、同行を拒絶しました。ところが、毛遂は、「今日、袋の中に入れてくだされば、先っぽどころか根もとまで突き出して見せますよ」と反論。結局、平原君が毛遂を連れて行ったところ、彼は、ほかの一九人を差し置いて、一人で大活躍。楚王を説得して援軍を出させることに成功し、趙の都を救ったのでした。
〔異形〕袋の中の錐。
出典 故事成語を知る辞典故事成語を知る辞典について 情報