改訂新版 世界大百科事典 「四天王物」の意味・わかりやすい解説
四天王物 (してんのうもの)
人形浄瑠璃,歌舞伎狂言,歌舞伎舞踊の一系統。史書というより小説に近い軍記《前太平記》41巻(1681ころ)に背景や登場人物(〈世界〉)を求める〈前太平記物〉は,源頼光とその四天王(渡辺綱,坂田金(公)時,碓氷貞光(うすいのさだみつ),卜部季武(うらべのすえたけ)の4人の家来)の武勇伝と,反逆者平将門の遺児相馬太郎良門,滝夜叉の復讐や藤原純友の残党伊賀寿太郎らの反逆を素材にしたものとに大別できる。このうち,四天王物は前者を題材とした作品群である。頼光四天王の活躍にからむ人物には,身替りの先駆をなす頼光の弟美女丸や平井保昌,和泉式部,小式部,周防内侍などの女性のほか,盗賊の袴垂保輔(はかまだれやすすけ),鬼同丸(きどうまる)がいる。取材された伝説としては,大江山の酒呑童子退治,羅生門や戻橋での渡辺綱の鬼女退治,葛城山の土蜘蛛退治,市原野での頼光の鬼同丸退治,足柄山で山姥となった八重桐に生み育てられる怪童丸(のちの金時)の怪力譚などがあげられる。これらはすでに,能や古浄瑠璃にも採り入れられて,多くの作品を生み出している。
人形浄瑠璃では,1707年(宝永4)9月大坂竹本座の《酒呑童子枕言葉》,12年(正徳2)7月竹本座の《嫗(こもち)山姥》などがある。なお,古浄瑠璃で有名な金平(きんぴら)浄瑠璃は,金時の子の金平を中心とする〈子四天王〉が活躍するものである。歌舞伎では,1673年(延宝1)江戸中村座上演とされる《四天王稚立(おさなだち)》,1701年(元禄14)7月中村座の《当世(いまよう)酒呑童子》,翌02年7月江戸山村座の《鬼城女山入(おにがじようおんなやまいり)》,81年(天明1)11月中村座の《四天王宿直着綿(とのいのきせわた)》(初世桜田治助作),1804年(文化1)11月江戸河原崎座の《四天王楓江戸粧(もみじのえどぐま)》(4世鶴屋南北作),63年(文久3)8月江戸守田座の《当龝(わせおくて)俄姿画》(3世桜田治助作)の中の〈市原野のだんまり〉などがある。江戸歌舞伎では顔見世でよく上演されたが,顔見世狂言として固定化して用いられるようになるのは,1729年(享保14)江戸市村座の《長生殿白髪金時》あたりからだといわれる。このほか,明治になって《茨木》《戻橋》などの舞踊が作られた。
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