歌舞伎(かぶき)舞踊の一系列。能の『山姥』をもとにしているが、歌舞伎では近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『嫗(こもち)山姥』を基礎に、遊女八重桐(やえぎり)が夫坂田蔵人(さかたのくらんど)の死後、山姥となって遺児の怪童丸を足柄(あしがら)山で育てるという設定で、1729年(享保14)以来しばしばつくられた。とくに顔見世狂言で「前太平記」を世界とするときは、大切(おおぎり)舞踊として山姥を扱うのが恒例のようになっていたので、数多くの作品が生まれた。今日もっとも有名なのは1848年(嘉永1)11月河原崎(かわらさき)座初演、三升屋二三治(みますやにそうじ)作の常磐津(ときわず)『薪荷雪間(たきぎにのうゆきま)の市川(いちかわ)』で、その原作『四天王大江山入(してんのうおおえのやまいり)』(1785)を「古(ふる)山姥」というのに対し、俗に「新山姥」という。足柄山中で山姥が育てた怪童丸が源頼光(よりみつ)の臣にみいだされ、坂田公時(きんとき)となって都へ上るという筋で、眼目は山姥の「山めぐり」の所作(しょさ)。ほかに富本『母育雪間鶯(ははそだちゆきまのうぐいす)』(1805)、清元『月花茲友鳥(つきとはなここにともどり)』(1823)などが知られ、また「山めぐり」のくだりは独立して踊られることがあり、長唄(ながうた)『四季の山姥』や地唄舞にもなっている。
[松井俊諭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本の芸能,音楽の曲名。山姥(やまうば)伝説が能をはじめとして邦楽,歌舞伎にとり入れられ,歌舞伎舞踊では題名はさまざまであるが,山姥物という分類で総括される。(1)能。…
※「山姥物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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