人形浄瑠璃。時代物。5段。通称《しゃべり山姥》。近松門左衛門作。1712年(正徳2)7月大坂竹本座初演。謡曲《山姥》に頼光四天王の世界をからませたもの。源頼光と清原高藤の抗争が主筋で,坂田時行と八重桐の葛藤が副筋であるが,二・四段目の〈八重桐廓話(くるわばなし)〉(しゃべり)と〈山姥〉が有名で,歌舞伎でもこの二段目〈兼冬館〉の〈しゃべり〉の場のみが上演されている。煙草屋源七(実在の人物を当て込んだもの)実は坂田時行と,廓でなじみの荻野屋八重桐(実在の女方役者荻野八重桐を採り入れた)が,廓話にかこつけて恋のなれそめを語る〈しゃべり〉が,父の敵討を果たさぬ男のふがいなさをなじる形に進み,時行はそれを恥じて自分の魂を八重桐の体内に宿らせ男児になって誕生すると称して自害する。不思議な通力を得た八重桐が,のちに山姥となり,男児を産み,これが坂田公時として世に出る。元禄の名優坂田藤十郎の話芸を,女方の役に採り入れて〈しゃべり〉の趣向を見せ場にしたもので,歌舞伎では嵐小六,嵐雛助によって上演した1775年(安永4)京の藤川山吾座《莩源氏(みばえげんじ)嫗山姥》が早い。四段目の〈山姥〉は,たいてい頼光四天王を世界とする顔見世狂言の一幕として,富本,清元,常磐津,長唄などの舞踊劇に作られ,現在でも多く上演されている。謡曲《仲光》の身替りの趣向を入れた三段目の冠者丸身替りの場面は,ほかの身替り劇に圧倒されて,埋没したままになっている。
→四天王物
執筆者:向井 芳樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。5段。近松門左衛門作。1712年(正徳2)大坂・竹本座初演。源頼光(よりみつ)が四天王とよばれる勇臣を得て政敵清原高藤(きよはらのたかふじ)を討つまでの話に、謡曲『山姥』を織り込んだ作。二段目「兼冬館(かねふゆやかた)」だけが文楽(ぶんらく)でも歌舞伎(かぶき)でも今日に流行している。坂田蔵人時行(さかたのくらんどときゆき)は遊女荻野屋八重桐(おぎのややえぎり)と夫婦になったが、父の仇(あだ)、物部平太(もののべへいた)を討つため妻と別れ、煙草屋(たばこや)源七となって流浪し、大納言(だいなごん)兼冬の館で頼光の許婚(いいなずけ)である沢瀉(おもだか)姫の機嫌をとるが、再会した八重桐から敵(かたき)はすでに妹糸萩(いとはぎ)が討ったと聞き、面目なさに切腹。その魂を胎内に宿らせた八重桐は通力を得て、姫を奪いに乱入した高藤勢を追い払い、足柄(あしがら)山へ飛び去る。当時の名女方荻野八重桐や実在の名物煙草屋を当て込んだもの。八重桐が源七への面当てに、姫の面前で廓(くるわ)における馴初(なれそ)めをしゃべる長話が眼目なので、通称を「八重桐廓噺(ばなし)」、俗に「しゃべり」という。原作はほかに、碓井貞光(うすいさだみつ)が糸萩の助太刀をする話(初段)、頼光をかくまう美濃(みの)の判官(はんがん)仲国(なかくに)が冠者丸(かんじゃまる)を身替りにたてる話(三段目)、山姥となった八重桐から生まれた快童丸(かいどうまる)が坂田公時(さかたのきんとき)と名のって頼光に仕える話(四段目)などがおもな内容。四段目は舞踊劇「山姥物」の原形とみられる。
[松井俊諭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…これらはすでに,能や古浄瑠璃にも採り入れられて,多くの作品を生み出している。 人形浄瑠璃では,1707年(宝永4)9月大坂竹本座の《酒呑童子枕言葉》,12年(正徳2)7月竹本座の《嫗(こもち)山姥》などがある。なお,古浄瑠璃で有名な金平(きんぴら)浄瑠璃は,金時の子の金平を中心とする〈子四天王〉が活躍するものである。…
…【平野 健次】(3)歌舞伎舞踊の山姥物。山姥を〈前太平記〉の世界と結びつけ,遊女八重桐が山姥となって山中に住み,坂田蔵人の遺子怪童丸(のちの坂田金時)を育てたとしたのは,1712年(正徳2)大坂竹本座上演の近松門左衛門作《嫗山姥(こもちやまんば)》を嚆矢(こうし)とする。この趣向が歌舞伎に入ったのは29年(享保14)《長生殿白髪金時》が初めで,所作事では62年(宝暦12)の富本《織殿軒漏月(おりどののきにもるつき)》が古い。…
※「嫗山姥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新