嫗山姥(読み)コモチヤマンバ

デジタル大辞泉 「嫗山姥」の意味・読み・例文・類語

こもちやまんば【嫗山姥】

浄瑠璃時代物。五段。近松門左衛門作。正徳2年(1712)大坂竹本座初演。謡曲山姥」に頼光四天王の世界を配する。二段目の「八重桐廓噺やえぎりくるわばなし」が有名。

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精選版 日本国語大辞典 「嫗山姥」の意味・読み・例文・類語

こもちやまんば【嫗山姥】

  1. 浄瑠璃。時代物。五段。近松門左衛門作。正徳二年(一七一二)頃大坂竹本座初演。謡曲「山姥」をもとにして、これに頼光四天王の世界を取り入れたもの。二段目の「八重桐廓話(やえぎりくるわばなし)」は「しゃべり」の演技として名高く、四段目の山姥と快童丸のくだりは歌舞伎所作事「山姥」の原拠となる。

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改訂新版 世界大百科事典 「嫗山姥」の意味・わかりやすい解説

嫗山姥 (こもちやまんば)

人形浄瑠璃。時代物。5段。通称《しゃべり山姥》。近松門左衛門作。1712年(正徳2)7月大坂竹本座初演。謡曲《山姥》に頼光四天王の世界をからませたもの。源頼光と清原高藤の抗争が主筋で,坂田時行と八重桐の葛藤が副筋であるが,二・四段目の〈八重桐廓話(くるわばなし)〉(しゃべり)と〈山姥〉が有名で,歌舞伎でもこの二段目〈兼冬館〉の〈しゃべり〉の場のみが上演されている。煙草屋源七(実在の人物を当て込んだもの)実は坂田時行と,廓でなじみの荻野屋八重桐(実在の女方役者荻野八重桐を採り入れた)が,廓話にかこつけて恋のなれそめを語る〈しゃべり〉が,父の敵討を果たさぬ男のふがいなさをなじる形に進み,時行はそれを恥じて自分の魂を八重桐の体内に宿らせ男児になって誕生すると称して自害する。不思議な通力を得た八重桐が,のちに山姥となり,男児を産み,これが坂田公時として世に出る。元禄の名優坂田藤十郎の話芸を,女方の役に採り入れて〈しゃべり〉の趣向を見せ場にしたもので,歌舞伎では嵐小六,嵐雛助によって上演した1775年(安永4)京の藤川山吾座《莩源氏(みばえげんじ)嫗山姥》が早い。四段目の〈山姥〉は,たいてい頼光四天王を世界とする顔見世狂言の一幕として,富本,清元,常磐津,長唄などの舞踊劇に作られ,現在でも多く上演されている。謡曲《仲光》の身替りの趣向を入れた三段目の冠者丸身替りの場面は,ほかの身替り劇に圧倒されて,埋没したままになっている。
四天王物
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「嫗山姥」の意味・わかりやすい解説

嫗山姥
こもちやまんば

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。5段。近松門左衛門作。1712年(正徳2)大坂・竹本座初演。源頼光(よりみつ)が四天王とよばれる勇臣を得て政敵清原高藤(きよはらのたかふじ)を討つまでの話に、謡曲『山姥』を織り込んだ作。二段目「兼冬館(かねふゆやかた)」だけが文楽(ぶんらく)でも歌舞伎(かぶき)でも今日に流行している。坂田蔵人時行(さかたのくらんどときゆき)は遊女荻野屋八重桐(おぎのややえぎり)と夫婦になったが、父の仇(あだ)、物部平太(もののべへいた)を討つため妻と別れ、煙草屋(たばこや)源七となって流浪し、大納言(だいなごん)兼冬の館で頼光の許婚(いいなずけ)である沢瀉(おもだか)姫の機嫌をとるが、再会した八重桐から敵(かたき)はすでに妹糸萩(いとはぎ)が討ったと聞き、面目なさに切腹。その魂を胎内に宿らせた八重桐は通力を得て、姫を奪いに乱入した高藤勢を追い払い、足柄(あしがら)山へ飛び去る。当時の名女方荻野八重桐や実在の名物煙草屋を当て込んだもの。八重桐が源七への面当てに、姫の面前で廓(くるわ)における馴初(なれそ)めをしゃべる長話が眼目なので、通称を「八重桐廓噺(ばなし)」、俗に「しゃべり」という。原作はほかに、碓井貞光(うすいさだみつ)が糸萩の助太刀をする話(初段)、頼光をかくまう美濃(みの)の判官(はんがん)仲国(なかくに)が冠者丸(かんじゃまる)を身替りにたてる話(三段目)、山姥となった八重桐から生まれた快童丸(かいどうまる)が坂田公時(さかたのきんとき)と名のって頼光に仕える話(四段目)などがおもな内容。四段目は舞踊劇「山姥物」の原形とみられる。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「嫗山姥」の意味・わかりやすい解説

嫗山姥
こもちやまうば

浄瑠璃。時代物。5段。近松門左衛門作。正徳2 (1712) 年大坂竹本座初演。山姥伝説による謡曲『山姥 (やまんば) 』や古浄瑠璃をふまえ,源頼光と坂田公時をはじめとする四天王が世に出る経緯を描く。女武道や長ぜりふを得意芸とした当時の名女方1世萩野八重桐を当て込んだ2段目「兼冬館」が特に著名で,仇討ちの本望をとげるまで夫時行と離れて暮す元遊女の八重桐が,時行との廓でのなれそめを物語る廓噺が中心。偶然再会した時行は,八重桐の胎内に魂を宿すと言い残して自害する。のちに八重桐が山姥となり,産み育てるのが坂田公時である。また4段目「山姥山めぐり」はのちに常磐津節などにも影響を与えた。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「嫗山姥」の解説

嫗山姥
こもちやまんば

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
近松門左衛門(1代)
補作者
近松徳叟 ほか
初演
正徳2.7(大坂・竹本座)

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世界大百科事典(旧版)内の嫗山姥の言及

【四天王物】より

…これらはすでに,能や古浄瑠璃にも採り入れられて,多くの作品を生み出している。 人形浄瑠璃では,1707年(宝永4)9月大坂竹本座の《酒呑童子枕言葉》,12年(正徳2)7月竹本座の《嫗(こもち)山姥》などがある。なお,古浄瑠璃で有名な金平(きんぴら)浄瑠璃は,金時の子の金平を中心とする〈子四天王〉が活躍するものである。…

【山姥】より

…【平野 健次】(3)歌舞伎舞踊の山姥物。山姥を〈前太平記〉の世界と結びつけ,遊女八重桐が山姥となって山中に住み,坂田蔵人の遺子怪童丸(のちの坂田金時)を育てたとしたのは,1712年(正徳2)大坂竹本座上演の近松門左衛門作《嫗山姥(こもちやまんば)》を嚆矢(こうし)とする。この趣向が歌舞伎に入ったのは29年(享保14)《長生殿白髪金時》が初めで,所作事では62年(宝暦12)の富本《織殿軒漏月(おりどののきにもるつき)》が古い。…

※「嫗山姥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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