改訂新版 世界大百科事典 「図書館学」の意味・わかりやすい解説
図書館学 (としょかんがく)
library science
図書館(情報センター)の管理・運営を中心にした理論と実践を伴う学問。図書館学のスタートは,1829年ドイツのシュレッティンガーMartin Schrettinger(1772-1851)が〈当人がいかにすぐれた学者でも,特殊な勉学と準備と実習とを経ないではライブラリアンには適しない〉と指摘し,専門的な図書館学校の必要を論じた時にあるが,それがゲッティンゲン大学の図書館学講座開設として実現するのは86年のことである。それは何かの専門を終えた大学卒業生に課せられる2~3年のコースであった。つまりアカデミックな図書館員の養成を目ざすものである。シュレッティンガーは〈図書館学Bibliothekswissenschaft〉なる語を登場させた。そしてその内容はあくまで図書館管理学の性格をもつものであった。
他方〈市民の大学〉としての公共図書館の設立を迎えたアメリカでは,〈図書の管理人jailor of book〉といった考え方では不十分であることを意識し,まず徒弟教育による組織的な教育を主張し,1887年コロンビア大学に学生20人を集めたライブラリー・スクールをスタートさせる。その内容は図書館用書体の作成,分類,図書の受入れ,タイプといった実用的なものであった。しかし,76年にM.デューイの〈十進分類法〉が発表されて以来,公共図書館における整理の画一化の必要が生じてきていたので,図書の分類と目録とりの訓練を行う図書館学校が順次設立されていった。そして1900年代になるとその教育内容にレファレンス,書誌,図書の選択といったものが付け加えられるようになり,図書館学のコアが成立してゆく。さらに図書館活動を利用者の要求,読書傾向の調査,出版状況など社会的背景から考察する必要も生じた。シカゴ大学は,先輩司書が後輩にその技術を教えるという従来の方針から,社会学・心理学などの教授を擁するアカデミックなライブラリー・スクールの開設に乗り出し,28年にはドクター・コースをつくるとともに専門誌《季刊図書館》を出版する(1931)。
このように市民生活に目を向けた図書館学教育がのびてきた反面,近年では学術雑誌の発刊が相次ぎ,学術情報として雑誌論文の速やかな利用をせまられ,ドキュメンテーション(情報管理)活動が自然科学者の間で起こり,図書館学は再び資料の書誌的コントロールという仕事に目を向けている。図書館学の中に,抄録,索引などの内容がもりこまれ,またコンピューターの導入によって,貸出し業務の機械化だけでなく,情報検索,さらにデータ・ベースの作成も導入されている。
日本における近代的な図書館学・図書館員教育は,1903年私立大橋図書館において第1回図書館事項講習会を開いたことに始まるが,21年になって文部省は上野に図書館員教習所を開設した。これは後64年,図書館短期大学として新たに発足した。1951年には慶応義塾大学文学部にアメリカ人学者による図書館学校が発足した。なお図書館短期大学は79年10月,図書館情報大学となったが,2002年10月に筑波大学に統合された。
執筆者:小野 泰博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報