1935年(昭和10)の国体明徴運動をうけて文部省が刊行した書。政府による正統的国体論の統一と普及の役割をになった。国体明徴と教学刷新のため文部省に設置された教学刷新評議会の審議と並行して編纂され,37年5月刊行。共産主義の温床として個人主義を排撃し,日本は皇室を宗家とする一大家族国家と規定して,天皇への絶対随順を説いた。はじめ20万部を作成し全国の学校や官庁に頒布,中等学校入学試験にも出題された。
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[昭和戦前期]
1931年の満州事変勃発以降,右翼思想の台頭にともなって国体論も活発化し,一方では国家社会主義者による一君万民論に基づく天皇制社会主義思想を生み出し,他方では公認の憲法学説であった天皇機関説を排撃した国体明徴問題が起こった(1935)。政府は国体明徴声明を出し,37年には文部省が《国体の本義》を配布した。そこでは〈大日本国体〉の冠絶性を,天地開闢神話,天照大神の聖徳,天壌無窮の神勅,三種の神器の神聖性から説き起こしてあり,神秘的な国体論がふたたび強まった。…
…岡田啓介内閣もこれに屈して,4月9日には《憲法撮要》など美濃部の3著書を発売禁止処分とし,さらに8月3日には第1次,10月15日には第2次の国体明徴声明を発して,天皇機関説を国体に反するものと断定,この学説の排除を決定した。国体明徴運動はこれによって終息したが,政府はさらに11月,文相を会長とする教学刷新評議会を設置,その答申に基づいて,37年5月,文部省は《国体の本義》を刊行した。同書は自由主義,民主主義の基礎としての個人主義を排撃し,日本は皇室を宗家とする〈一大家族国家〉であるとして,天皇に〈絶対随順〉〈没我帰一〉すること,おのおのの分を守りながら和を実現していくことが,日本国民のあるべき姿だと説いているが,〈国体明徴〉とは結局,このようなイデオロギーを国民に強制していくことにほかならなかった。…
…(3)治安対策とイデオロギー対策におけるファッショ化の進展 思想犯保護観察法(1936年5月29日公布)と不穏文書臨時取締法(同年6月15日公布)が制定されたが,これらの法律は罪刑法定主義の原則を逸脱し,治安当局の恣意によって弾圧が強化されるというファッショ的な性格を有していた。また文部省編《国体の本義》(1937年5月31日刊)は,国民に天皇への〈絶対随順〉を説き,日本主義国体論以外のすべての思想は〈国体明徴〉と矛盾しない範囲においてのみ〈摂取醇化〉が許されることになり,国民思想の画一化が一段と強化された。(4)積極的外交政策の展開 華北分離工作の推進,5相会議決定〈国策の基準〉(1936年8月7日)による国策としての南進政策の確定,日独防共協定調印(1936年11月25日)による日独ファッショ枢軸の形成などの積極政策が展開され,国内の準戦時体制を強化する役割を果たした。…
…この考え方が,あらゆる場所で国家権力による強制をともなって広められ,実践に移された結果,兵士の生命を軽視した無謀な戦術や自決の強要などによって,戦争の犠牲者を増大させる大きな原因となった。さらに同年7月21日に刊行された文部省教学局《臣民の道》は,文部省《国体の本義》(1937年5月31日刊)の日本主義国体論を受け継ぎ,〈天皇への帰一〉と〈滅私奉公〉による国家への奉仕を国民に要求したが,この二つの文書こそ,太平洋戦争下の国民の精神生活を規制した基本的文献であった。言論と出版に対する統制も強められた。…
…教育内容の決定とその監督行政は国家事務として文部省が掌握し,国家統制を行った。日中戦争から太平洋戦争にかけては,《国体の本義》(1937),《臣民の道》(1941)を編集・刊行して国体思想を鼓吹したように,一貫して軍国主義的・超国家主義的教育政策を遂行した。 敗戦直後から文部省の戦争責任を追及する声が高まり,文部省を廃止し,代わって中央教育委員会を置くという改革案が政府審議会からも提起された。…
※「国体の本義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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