近世までの例は少ないが、幕末より政治に関する著述、論文に登場するのを始め、明治期に入って、政府の統制強化を背景に、詔勅と憲法の用語としてさかんに用いられた。第二次世界大戦敗戦直後の、国家体制の改革にともない、昭和二一年以降一般には用いられなくなった。
一般的には,君主主権のもとで,君主に支配されている国民を指す。たとえば日本の明治憲法には,〈日本臣民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル〉(18条)とあって,天皇と皇族以外の日本人はすべて臣民と呼ばれた。国民主権が成立し,民主主義が普遍化するとともに,臣民は国民にとって代わられ,一般的な用語としてはほとんど用いられなくなる。しかし,西欧の歴史においては,近代的な国民形成の出発点として重要な意味をもっていた。封建社会では,人々は身分的階層制のもとで,法制的にも社会経済的にもきわめて不平等な状態におかれていた。司祭,職人,商人,農民など,それぞれの地位に応じて,人々はさまざまな特権を認められた。領主は最も多くの特権を認められていたが,しかし領主権もけっして万能ではなく,伝統や慣習によって制約されていたし,地域的にも狭い範囲にしか及ばなかった。こうした地域的・階層的分権制を打破して,今日の国民国家への道を開いたのは絶対王政である。絶対君主は,カトリック教会と地域的領主制の双方に対抗して,国家の存在理由を確保するために,君主権力の絶対性あるいは無制約性を主張した。その理論的定式が国家主権にほかならない。国家主権,具体的には君主主権の無制約性の要求は,かつて封建制のもとで多様な形で認められていた身分的諸特権を基本的に剝奪し,君主以外のすべての人間を臣民として平等化することになった。すなわち,臣民は絶対王政における平準化の所産であり,平等化の点で国民形成の第一段階をなすものといえる。臣民は,国民が主体的・能動的であるのに対し,客体的・受動的であるが,それだけに臣民的要素が強ければ,政治は安定しやすい。こうした点に着目して,参加型の政治文化と臣民型の政治文化とが混合した文化をもつ社会において最も安定した政治が実現されると説いたのがアーモンドG.A.AlmondとバーバS.Verbaの《市民社会の政治文化The Civic Culture》(1963)である。
執筆者:阿部 斉
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君主国において、国王たる君主の支配する対象者が臣民と称される。日本の場合、明治憲法下において国民は臣民とよばれた。近代の市民国家や現代の民主国家においては市民とか国民であり、一定の政治的参政権を有し、公式的には主権者たる地位が確保されている。臣民たる個人は国家や全体に対して従属的なものであり、忠誠心が要請されており、市民的自由の概念と対比される。
[福岡政行]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[形式論理学と文法]
そもそも主語・述語とは,形式論理学における命題〈AはBである〉のA(それについて語るところのもの)およびB(Aについて語る事がら)に当たるものを,アリストテレスがそれぞれギリシア語でhypokeimenon,katēgoroumenonと表現したことにさかのぼるという。これが,その後ラテン語でそれぞれsubjectum,praedictumと表現され,論理学および文法の用語としてしだいに定着,今日のヨーロッパ諸言語でも継承され(たとえば英語subject,predicate),また他の言語でも用いられるようになり,日本でも主語・述語と訳してきたものである(形式論理学では主辞・賓辞とも,文法では主部・述部とも訳す)。当初のヨーロッパでは論理学と文法は密接な(元来は未分化ともいえる)関係にあり,共通の用語となったのだが,しかし,両者は目標も対象も異なる学問である(文法は今日では言語学の一部として位置づけられている)。…
…20世紀においては,新しい技法の開拓や音楽観の変化に伴って,主題概念そのものが再検討を迫られている。なお,フーガなどの模倣対位法楽曲の主題をサブジェクトsubject(ポイントpointともいう)という。【土田 英三郎】。…
※「臣民」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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