洋画家。岡山市に生まれる。1906年渡米し,はじめシアトルで鉄道や農場で下働きし,ロサンゼルスに移って同地の美術学校へ通う。10年ニューヨークに移住。苦学しながら〈ジ・エイト〉メンバーのヘンライの学校に通う。〈ジ・エイト〉は19世紀以来の田園風景を主題とした素朴な写実を打破しようとする革新的な運動で,アメリカ的な都市生活を描き,アーモリー・ショーとともに当時の画家たちに大きな影響をあたえた。国吉はやがてインディペンデント美術学校などに通い,1916-20年にはアート・スチューデンツ・リーグに学んだ。同校でダウンタウンの風俗をおもに描いていたアメリカ画壇の指導的画家ミラーKenneth Hayes Miller(1876-1952)の薫陶を受ける。授業は画学生の個性を引き出そうとする自由な方針で,同校には清水登之(とし)(1887-1945),石垣栄太郎(1893-1958),北川民次などの日本人画家も入学している。国吉は在学中に反アカデミズムを標榜する美術家集団ペンギン・クラブの会員となり,また同時代美術の擁護者H.I.フィールドの知遇を受けた。また,フランスから来てペンギン・クラブの中心的な画家でもあったパスキンと親交を結び,作風の感化を受ける。
1922年有力なダニエル画廊で最初の個展を開き,ニューヨーク画壇へデビューした。このころの代表的作品には《果物を盗む少年》や,国吉が最も好んだ主題のひとつである牛と少年像を組み合わせた《牛と小さなジョー》(いずれも1923)などがある。暗褐色を主調色とするプリミティブな作風だが,25年と28年の渡欧によって主題も画面も一変する。憂愁と倦怠感をいだいた女性像が登場し,パリで制作した石版画の経験が,マチエールを潤滑なものにする。29年ニューヨーク近代美術館が組織した〈19人の現代アメリカ作家展〉に選ばれ,また33年にはアート・スチューデンツ・リーグの教授となり,アメリカ画壇で脚光を浴びた。彼の作品に社会的な暗い影を落としはじめるのは,日米関係が険悪な状況をむかえてからである。太平洋戦争の勃発に際しては反戦活動を行う。《誰かが私のポスターを破った》(1943)はB.シャーンのポスター《われらフランスの労働者は警告する》に拠ったものである。大戦後は《東洋の贈物》(1951)などにみるように色彩も華美になり,象徴的な性格を強める。48年ホイットニー美術館で大回顧展が開かれたほか,国際的な美術展へもアメリカを代表する画家として出品した。ニューヨークで死去。
執筆者:酒井 忠康
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大正・昭和期の洋画家
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終生アメリカの美術界で活躍した日本国籍の画家。明治22年9月1日岡山市に生まれる。1906年(明治39)岡山県立工業学校染織科を中退して渡米し、ロサンゼルス美術学校に学んだのち、10年ニューヨークに移住。アート・スチューデンツ・リーグに入ってケネス・ヘイズ・ミラーの指導を受け、また反アカデミーのペンギンクラブの会員となる。22年から個展活動を始め、『果物を盗む少年』ほかに幻想的素朴派の作風を示す。25年と28年(昭和3)にヨーロッパ旅行をしてリアリズム画風に転じ、また石版画制作も始める。29年ニューヨーク近代美術館の「19人の現在アメリカ作家展」に選ばれ、画壇の地位を確立。31年帰国して東京と大阪で個展、翌年二科会員に推され、帰米。静物画、風景画に心象を託すほか、『私は疲れた』など官能的でもの憂い女性像を多く描く。またカーネギー国際美術展では39年に二等賞、43年に『誰(だれ)かが私のポスターを破った』で一等賞。太平洋戦争中は反日本軍国主義の立場を貫いた。48年(昭和23)ホイットニー美術館で異例の大回顧展が開かれた。晩年は『啓示』など色彩が鮮烈になり、表現を強め、52年ベネチア・ビエンナーレ展にアメリカ代表4作家の1人として選ばれたが、翌年(昭和28)5月14日ニューヨークで没した。
[小倉忠夫]
『小沢善雄著『評伝国吉康雄』(1974・新潮社)』
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「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...
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