日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際債」の意味・わかりやすい解説
国際債
こくさいさい
international bond
国際資本市場で、発行される債券のこと。さらに、厳密にいえば、発行される債券の発行体の国籍、起債国、通貨のいずれかが一致しないような国際的な債券をいう。
実際に、日本企業は長期資金を調達するために、国際資本市場において盛んに債券を発行しており、これを一般には外債発行と称することが多い。しかし、国際金融論上、これは正確な表現ではなく、国際債発行とよぶべきである。その国際債には、次の2種類がある。
(1)外債 非居住者が債券の表示通貨の発行国にある資本市場で起債するもの
(2)ユーロ債 居住者、非居住者を問わず、債券の表示通貨の発行国以外の資本市場で起債するもの
たとえば、日本の企業がドル建て債券をニューヨーク市場で発行すれば、外債ということになるし、ロンドン市場で発行すればユーロ債ということになる。
近年、各国で金融機関も含めた企業財務の国際化が目覚ましい進展をみせていることを反映し、債券発行による資金調達のなかで、クロスボーダー(国境を越えた取引)の国際債のウェートは上昇している。国際決済銀行(BIS)のデータによれば、2000年末は国内債券の20%強に相当したものが、2008年末には48.6%、23兆ドル(残高ベース)にも及び、国際債の拡大が著しい。もっとも身近で、典型的な事例として、日本の企業が円建て社債を発行するのに、東京債券市場ではなく、発行コストと手続の簡素さなどから、ロンドンのユーロ円債市場で起債し、東京市場の空洞化問題を招いたことが想起されよう。通貨別には、ドル建てが36.2%、ユーロ建てが47.8%、円建てが3.3%などとなっており、国際的な資金調達・運用(国際通貨の機能のうち、資産通貨、投資通貨としての役割)におけるユーロの台頭がうかがわれる。
国際債の発行は、内外金利差と為替(かわせ)相場の動向、発行にかかわる事務手数料や機動性、資金調達先の分散化、国際的知名度のアップ、発行後にスワップする場合はその環境などを多面的に検討したうえで決定されることはいうまでもない。しかし、最大の関心事は為替相場の変動もあわせた調達コストであり、その点から発行形態として、一般的な普通社債に加えて、転換社債とワラント債が検討されてきた。
すなわち、転換社債とは一定のクーポンが支払われる普通社債に、将来の一定期間にあらかじめ定められた価格(転換価格)で、発行会社の株式に転換できる権利がついた社債をいう。したがって、投資家は利子収入を享受するか、株価が上昇した場合に株式に転換し、値上がり益を得るかという選択肢を有する。これが国際債(ただし、外貨建て)の場合には、転換にあたっての転換価格と固定的な為替相場が設定されるため、投資家は株価上昇と為替益という二つの転換の利益を得るチャンスを手にすることができる。
これに対して、ワラント債(ワラント付普通社債)は、一定の期間内にあらかじめ定められた価格(行使価格)で所定の数または額の発行会社の新株発行を請求できる権利(ワラント)を普通社債に付与したものをいう。転換社債と同様、発行会社の株式を取得できるため、国際債(ただし、外貨建て)の場合、株価上昇と為替益をえるチャンスがあるという点では共通している。しかし、転換社債は株式に転換してしまえば、社債は消滅するが、ワラント債の場合は、ワラントを行使しても、社債はそのまま存続することになる。
いずれにしても、投資家には状況次第で魅力的なうまみが付与されている反面、発行主体にとっても、比較的低クーポンで発行できるし、株式に転換されたり、新株が発行されることによって、自己資本の充実を図ることが可能になる。このため、同じ国際債でも、その時々の金融状況、とりわけ株式市場動向によって、起債形態の変化がみられる。
[中條誠一]