改訂新版 世界大百科事典 「地域科学」の意味・わかりやすい解説
地域科学 (ちいきかがく)
regional science
地域経済学と人文地理学とを結びつけて体系化し,立地政策や地域計画などへの応用をはかる新しい空間科学で,アメリカ合衆国の経済学者アイサードWalter Isardによって1950年代に創成された。それまでの地域経済学は記述的であり,経済学の片隅におかれていたし,理論経済学の方は空間性を捨象し,いわば無次元のふしぎな国についての学にとどまっていた。一方,人文地理学においても予測的科学となるための理論化は立ち後れていた。アイサードは,そうした両者の欠陥を補正して理論的な地域科学の開発に努力し,54年には地域科学協会The Regional Science Associationを創立,ヨーロッパ諸国や日本などにその支部を設置するために奔走し,地域科学雑誌および協会論文集とプロシーディングスの刊行を始めた。次いで58年にはペンシルベニア大学に地域科学教室を創設した。
地域科学は,新古典派経済学の競争均衡モデルや最適化理論,線形計画モデルなどに立脚し,J.H.vonチューネンの法則,W.クリスタラーの中心地理論,A.レッシュの市場立地論,ゲーム理論,力学や数理統計学などの理論や解析手法を適宜応用しながら,科学的形態を整え,地域間の一般均衡論,新古典派の土地利用論の改良,地代算出モデルなどの構築等にその特色を発揮している。地域科学は,並行的に発展した計量地理学とは姉妹的な関係にあるが,後者はどちらかといえば,新規のモデルの開発よりは,地域科学的方法を適用して現実の地域現象を理論的に説明する方に傾斜しているといえよう。地域科学は,60年代に入ると,新古典派的均衡仮説の理論化と数量化におけるゆきすぎや誤りが批判されたこともあって,その後は新古典派と関係の薄い新しい命題を立てて,地域成長のダイナミックス,地域システムや大都市システムの計量経済モデル,環境インパクトモデル,諸種の地域分析法などの開発に取り組んでいる。地域科学は,コンピューターの飛躍的発達に支えられ,上記の理論モデルを使用して,実践的な地域経済開発計画や立地政策などに寄与している。
執筆者:西川 治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報