改訂新版 世界大百科事典 「坑内粉塵」の意味・わかりやすい解説
坑内粉塵 (こうないふんじん)
mine dust
鉱石および石炭の採掘,坑道の掘進,その他坑内作業に伴って発生する粉塵の総称。石炭質粉塵は,別に炭塵coal dustと呼ぶ。粉塵としての粒子の大きさ(粒径)はとくに定義づけられていないが,普通は数百μm以下のものを指す。坑内で発生した粉塵は通気によって流下するが,長時間気流中に浮遊しているものを浮遊粉塵,坑道や切羽の床や支柱上に堆積しているものを堆積粉塵といい,粒径は前者が10μm以下,後者はそれ以上のことが多い。鉱石や岩石の発破,掘削,運搬等によって発生した粉塵には,遊離ケイ(珪)酸のような難溶性成分を含むことが多いので,浮遊状態にあるこれらの微粒子粉塵を人が長期間にわたって吸入していると珪肺に,アスベスト(石綿)を含む場合は肺癌に,それぞれなりやすい。炭塵による肺の疾患は炭肺(たんぱい)と呼ばれるが,病状は珪肺と同じである。また浮遊炭塵は,炭塵爆発(粉塵爆発)の危険がある。ウラン鉱山の坑内粉塵は,放射性ガスであるラドンが壊変して生成した放射性核種の結合した微粒子や,これが付着した岩石粉塵からなる。したがってこれを吸入すると放射能障害を起こす危険度が大きいので,防護対策は一般の坑内粉塵に対するよりも,さらに厳重に行われなければならない。堆積粉塵の場合は,それが直接,塵肺(じんぱい),肺癌,爆発などの危険につながることはないが,堆積状態にあっても,それが何かの衝撃によって再飛散し,浮遊の状態に至れば,大量吸入に,また炭塵ならば炭塵爆発に,それぞれ至ることがある。したがって坑内粉塵対策としては,発生した粉塵を浮遊,または再飛散させぬことを主眼にする必要がある。
執筆者:岩崎 孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報