デジタル大辞泉
「塵肺」の意味・読み・例文・類語
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じん‐ぱいヂン‥【塵肺】
- 〘 名詞 〙 職業病の一つ。採炭、採石などの労働に長年従事する者が、肺に粉塵がたまって呼吸機能に障害を起こす病気。珪肺・石綿肺・炭素肺・アルミナ肺などがある。息切れ、土色の顔色、むくみ、食欲不振などの症状を呈する。昭和三五年(一九六〇)じん肺法が制定、保護措置が規定された。
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じんぱいしょう【塵肺(症) (Pnenmoconiosis)】
◎鉱物性粉塵(こうぶつせいふんじん)の吸入が原因
有毒なガスや蒸気、粉塵を吸入すると、気管・気管支や肺にさまざまな病的な変化がおこります。なかでも鉱物性(無機物)粉塵を吸入したために肺におこった病気を塵肺と総称します。
この病変は、線維(せんい)が増えること(線維性の変化)が主で、慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)や肺気腫(はいきしゅ)をともなうことも多く、肺の柔軟性が失われ、呼吸困難になります。
植物や動物などから発生する有機粉塵(綿ぼこり、木くずの粉など)を吸っておこる肺の異常も、末期には線維性変化を生じます。どちらも、からだが吸入した粉塵に反応するのですが、有機粉塵による異常はアレルギー性の呼吸器疾患で、塵肺とはちがいます。
呼吸器系の気道(きどう)には異物を排泄(はいせつ)する作用があり、吸入された粉塵は分泌液(ぶんぴつえき)とともに、気道の線毛(せんもう)運動によって喉頭(こうとう)のほうへ、たんとして排出されます。
この防御機能をくぐり抜けて肺の深部に入り込んだ粉塵は、大食細胞(たいしょくさいぼう)(マクロファージ)にのみこまれます。有機粉塵なら大食細胞が消化できますが、鉱物性粉塵は消化できず、最終的に気管・気管支周囲のリンパ節まで運ばれて貯蔵されます。吸入した粉塵が大量(長期)であればこの処理能力を超えてしまい、肺組織内部に残った粉塵により、組織の線維が増えてしまうのです。
広範囲に線維化した肺は、原因も臓器も異なりますが、肝臓でいえば肝硬変(かんこうへん)がおこったようなもの、と考えればよいと思います。
塵肺をおこすほど粉塵を吸入するのは、ほとんどが職業で粉塵にさらされている人たちです。過去に粉塵をまき散らす工場や鉱山の周辺にすむ住民が発病することもあったように、まれに近隣暴露(きんりんばくろ)が原因になることもあります。
代表的な塵肺は、ケイ素による珪肺(けいはい)と、石綿(いしわた)(アスベスト)による石綿肺(せきめんはい)です。しかし、各種の粉塵がまう職場も少なくなく、それらが混合した粉塵によっておこる塵肺もあります。
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塵肺 (じんぱい)
pneumoconiosis
職業病の一つで,長期間にわたって吸入された多量の粉塵が肺に沈着し,その結果,肺に広く繊維増殖性変化(肺繊維症)を起こす病気である。このため肺胞への空気の出入りが悪くなり息切れが起こる。最も数が多く,重症に進みやすいのは珪肺と石綿症である。このほか鉄粉吸入の鉄肺,アルミナ粉塵吸入のアルミナ肺などがあり,また無機粉塵だけでなく綿肺,サトウキビ肺,線香肺など有機粉塵によるものもある。
病気が進むと,呼吸困難などの自覚症状が起こる。いったんできあがった病変は元に戻らず,治療法もないので,自覚症状の起こらない段階で発見する必要がある。そのため,鉱物性粉塵の吸入による塵肺の予防,早期発見(X線撮影),作業転換,療養などについては,1960年に制定されたじん肺法に規定されている。塵肺対策の第1は予防であって,粉塵を吸入しないようにすること,防塵マスクの使用を励行すること,作業環境を改善することである。
→職業病
執筆者:三上 理一郎
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塵肺【じんぱい】
各種の粉塵の吸入により,肺に繊維増殖が認められ,次第に肺機能が低下する疾病。重要な職業病。X線検査で異常な陰影が見られる。ここでいう粉塵とは細菌のような生物体を除く固体の粉末物質である。石英のような非結合型ケイ酸の吸入によって起こる珪肺(けいはい)は塵肺の代表的なもので,かつて,〈よろけ〉〈よいよい〉などと呼ばれた。炭鉱労働者や石工の珪肺はすでにローマ時代から記録されている。→塵肺法
→関連項目鉱山保安|炭鉱
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塵肺
じんぱい
pneumoconiosis
粉塵を長期間吸入することによって,それが肺に貯留して,そのため肺組織に線維増殖性変化を中心とした不可逆的な病変を起した状態をいう。粉塵の種類によりケイ肺,鉄粉肺,石綿肺,炭肺,石肺などがある。最も古くから存在する職業病である。肺に線維化が起って結節をつくり,塊状巣を形成する。これに伴って肺胞壁の破壊が起って肺気腫となり,肺の換気・血流障害がもたらされる。症状は咳,痰,息切れ,心悸亢進など。いったん結核や肺炎などの感染症を合併することが多い。肺に変化が起ると治療によって回復させることはできないので,予防対策,早期発見が重要である。塵肺法,労働安全衛生法,労働基準法によって,定期健診,作業環境管理,業務上疾病としての補償が行われている。
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世界大百科事典(旧版)内の塵肺の言及
【珪肺】より
…[塵肺](じんぱい)の一種で,職業病の一つ。遊離ケイ(珪)酸(石英など)を含む石やガラスなどを取り扱う採鉱場・石切場・陶磁器工場で長い間(5~20年)働いた人たちが,遊離ケイ酸をたくさん吸いこんだ結果,それが肺にたまって肺の繊維組織が増えて肺が硬くなり,その結果肺の働きが障害されて起こる。…
※「塵肺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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