坑内気流中に浮遊している石炭の粉末に着火して爆発する現象。炭層を採掘したり、採掘した石炭を運搬する際、破砕炭は大小の塊になるほか、一部は粉砕して炭塵(粉炭)になる。とくに採炭機械(コール・カッター、コール・プラオ)の使用、発破採炭等では、大量の炭塵が発生するし、石炭化度の進んだ軟質の瀝青(れきせい)炭は粉化しやすく炭塵発生量が多い。
炭塵は発生箇所から気流にのって浮遊しつつ、粒度の大きなものから順次床面(炭鉱用語で踏前(ふまえ))に堆積(たいせき)する。しかし、微細なものは沈下せずに空中に浮かんだまま流れていく。これを「浮遊炭塵」という。炭塵が微細で含有揮発分が10%を超えるものを「爆発性炭塵」と称し、爆発対策が法令で義務づけられている。たとえば水噴霧により浮遊塵を沈めるとか、「岩粉」と称する石灰石の粉末を散布して、堆積炭塵を難燃化するなどである。爆発性炭塵は空気1立方メートル中に50~80グラム以上含まれているものに着火すれば爆発する。ある程度以上多くなると不爆となるが、空気1立方メートル当り2キログラムとも3キログラムともいわれ、上限ははっきりしていない。炭塵に限らず、可燃性粉末は空気中に適量混合していれば着火爆発する。アメリカでは小麦粉工場で爆発事故を起こすので対策に悩んでいる。
炭塵の爆発が初めて大問題となったのは1906年、フランスのクーリエ炭鉱の爆発で1000人以上の死者が出てからである。その後、日本の諸炭鉱でも多くの炭塵爆発が起こっており多数の死者が出ている。戦後でも、北海道の茂尻(もじり)炭鉱の爆発(60人死亡、1955)、三池(みいけ)炭鉱爆発(458人死亡、1963)、石狩炭鉱爆発(坑内員31人全滅、1973)等があげられる。また日本が経営していた当時、中国東北部(旧満州)の本渓湖(ほんけいこ)炭鉱では1942年に1527人の死者の出た世界炭鉱史上最大の炭塵爆発があった。炭塵爆発の恐ろしさは「伝播(でんぱ)性」と「あとガス」である。あとガスとは一酸化炭素を含む毒ガスであり、これが気流にのって坑内各所に流入し、直接爆発では被害を受けなかった多数の人が罹災(りさい)する。また、ひとたび爆発が起こると、圧風が堆積炭塵を舞い上げて火炎が伝播し、爆発規模が拡大していく。爆発の伝播防止策として、爆風によって容易に転倒する岩粉をのせた棚を坑道の天井際に並べておく方法が用いられている。すなわち、爆発の圧風が棚を転倒させ、坑道内に不燃帯をつくり、火炎の遮断壁となる。岩粉棚のかわりにビニル製の水袋を多数吊(つ)るして水幕壁による火炎遮断をする方法も用いられており、これを「水棚(みずだな)」という。あとガス中の有毒な一酸化炭素には、酸化して無害な二酸化炭素にする薬品が入っているマスクがあるが、使用時、吸気が甚だしく高温になるため、使えないとの声もあって、改良中である。
[磯部俊郎]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…炭塵による肺の疾患は炭肺(たんぱい)と呼ばれるが,病状は珪肺と同じである。また浮遊炭塵は,炭塵爆発(粉塵爆発)の危険がある。ウラン鉱山の坑内粉塵は,放射性ガスであるラドンが壊変して生成した放射性核種の結合した微粒子や,これが付着した岩石粉塵からなる。…
…砂糖,小麦粉,おがくず粉,米粉,デンプンその他の可燃性の微細粉塵が,塵雲となって飛揚し,火源に接すると爆発を起こす現象。石炭の微粉も同様に激しく爆発を起こすが,この場合は炭塵爆発ともいう。以下この石炭の粉塵爆発について述べる。…
※「炭塵爆発」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新