改訂新版 世界大百科事典 「坑内通気」の意味・わかりやすい解説
坑内通気 (こうないつうき)
mine ventilation
鉱山,炭鉱の坑内に新鮮な空気を送って,逆に汚れた空気を坑内から排出させること。通気の第1の目的は坑内で働く人への酸素の供給である。坑内空気中の酸素は,人の呼吸,石炭・鉱石の酸化,坑木の腐敗などによって消費され(石炭の酸化による酸素の消費が最も著しい),また炭層および地層から窒素,二酸化炭素(炭酸ガス)などが湧出して坑内空気中の酸素の含有率を減少させ,いわゆる酸欠の状態となる。この酸素欠損を補うために新鮮な空気を送る。第2の目的は,坑内で発生または湧出する有毒ガス(一酸化炭素,硫化水素,酸化窒素)や有害ガス(メタン)を新鮮な空気によって薄めて坑外に排出することである。硫化水素は,地層中からわき出したり,湧水中から発散されるが,卵の腐ったようなにおいで容易にわかる。酸化窒素は爆薬の不完全爆発の際に発生する。最も危険なものは一酸化炭素で,石炭の自然発火,坑内火災,坑内爆発,内燃機関などから発生する。無色無臭で猛毒であるから注意しなければならない。メタンは石炭生成の際に発生し,被覆地層のため大気中への発散がさえぎられると炭層やその付近の岩石中に蓄積され,採炭に際して坑内にわき出ることになる。そのわき出る状況としては,炭層あるいは地層の表面から緩慢に継続してわき出る場合もあれば,石炭中に包蔵されている高圧のメタンが石炭を粉砕して突出する場合(ガス突出)もある。メタンには毒性はないが,空気と混合してその含有量が5~15%の範囲内にあるものは,火がつくとガス爆発を起こすので危険である。第3の目的は坑内温度の冷却である。坑内では,各種の原動機からの排熱のほか,深くなるにしたがって地熱,空気自体の圧縮熱,石炭・鉱石の酸化熱などによって坑内温度が上昇する。坑内温度が高くなると,労働者の作業能率に著しい影響を及ぼし,さらには労働不能ということさえ生ずる。
方法
坑内通気において,新鮮な空気が入る坑口(入気坑口)から切羽までの気流を入気といい,切羽から汚れた空気を排出する坑口(排気坑口)までの気流を排気という。坑内通気の方式としては中央式と対偶式との別がある。中央式では,入気坑口と排気坑口とが相接して並んで設けられる。気流は切羽を往復することになるので,普通の場合,入気坑道と排気坑道とが平行して並ぶこととなり,気流が短絡しがちである。対偶式では,入気坑口と排気坑口とを離して設けるので,気流は入気坑道→切羽→排気坑道と一方向に進むので気流の短絡する危険が少ない。通気を起こさせる原動力は気圧差であり,坑内外の気温の差があるために自然に生ずる圧力差が坑内通気の原動力となる場合を自然通気といい,扇風機によって人工的に圧力差をつくって坑内通気を行う場合を人工通気(機械通気)という。機械通気方法としては,扇風機を排気坑口に設置して,この扇風機によって生ずる負圧(大気圧以下の気圧)で坑内の空気を吸い出すようにするのが普通である。坑内が深く,あるいは広くなって,この主要扇風機だけでは必要な風量が得られなくなると,坑内通気回路の中にさらに扇風機を設置することがある。これを補助扇風機という。この主要扇風機と補助扇風機との組合せで入気坑道,切羽,排気坑道の通気は確保できるが,回路から分岐した掘進切羽などには風が回らない。このような所には,回路中にふつう押込みの扇風機を設置し,その先に風管を切羽まで敷設して通気を行う。これを局部通気といっている。このように坑内通気は鉱山・炭鉱の生命となるものであるから,つねに気流の流れを妨げないように坑道を整備し,扇風機の運転を十分に監視しなければならない。
坑内等積孔
坑道を空気が流れるには,周壁との摩擦などのために生ずる通気抵抗に打ち勝つ通気圧を必要とする。この坑道の通気抵抗を1枚の薄い板にうがった穴の面積で表したものを坑内等積孔という。すなわち,穴をうがった1枚の薄い板の両側に坑内通気圧と等しい圧力差を与え,その穴を通る空気量が坑内の通気量と等しくなるように穴の面積を調節したとき,その穴の面積が坑内等積孔となる。坑内等積孔の値が大きいほど抵抗が小さいことを示している。坑内等積孔をAm2,通気圧をh(水柱mm),通気量をQm3/sとすると,で計算される。また通気圧は通気量の2乗に比例するから,坑内等積孔は坑道の状態が変化しなければ一定である。
執筆者:伊木 正二+大橋 脩作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報