地下の採掘場および坑道掘進現場などで、突然粉炭が高圧ガスとともに噴き出してくる現象。このため当該現場に働いていた人々が粉炭に埋没したり、噴き出したガスのため窒息して死傷する鉱山災害である。1981年(昭和56)10月に北海道夕張市にあった旧北炭夕張新炭鉱での100人近い死亡者を出したガス突出は日本炭鉱史上最大のものであった。噴出した粉炭は約4000トン、メタンガス量は60万立方メートルであったといわれている。
ガス突出は日本でも明治以来報告されているものだけで百数十件発生しており、死亡者総数で320人以上に達し、炭鉱でもっとも恐れられている事故の一つである。そのうえ、採掘深度が大きくなれば、発生の頻度、規模とも増加する傾向にあり、深部災害といわれている。
日本でおこったガス突出は、少数の例外を除けば、炭鉱でメタンガスが粉炭を伴って噴出するものである。諸外国ではメタンガスばかりでなく二酸化炭素の突出、メタンと二酸化炭素の混合突出も数多く報告されている。それらの国はフランス、ポーランド、旧チェコスロバキア、ハンガリーおよび旧ソ連であり、全世界での発生総数は数千回以上と推察される。とくに二酸化炭素の場合は激しく、しかも大きな突出になるため、各国とも深部採掘にあたって対策に悩まされている。さらに二酸化炭素の突出は、炭鉱ばかりではなく、岩塩やカリウムの鉱山にも多く、これらの鉱山はむしろ炭鉱以上に注意と対策に苦心している。
ガス突出の発生原因および予知については、まだ十分に解明されておらず、東西ヨーロッパ諸国、中国、ロシア連邦ならびに日本でも熱心に研究されていて、20~30年以前には、フランス、ドイツ、ハンガリーおよび旧ソ連などで数年置きに原因と機構の究明、予知および防止対策のための国際シンポジウムが開かれていた。
予知法としては、突出予想区域の岩盤や炭層の微小破壊音の特性をとらえてみたり、炭層のガスの脱着速度(炭層から採取した一定量の石炭にガスをいったん吸収させたのち放散させ、一定時間内での一定量の石炭からのガスの放出速度を計る)を測定して炭層の突出の危険性を評価するぐらいが実用化されている方法である。
一方、防止対策は、炭層内に多数の孔(あな)をうがち、その孔に吸引圧をかけ、炭層内に包蔵されている高圧のガスを抜く方法、炭層に大口径孔をうがって炭層を破砕させ、内部に作用している盤圧すなわち応力を除去する方法、および発破(はっぱ)をかけて炭層に刺激を与え、人工突出をおこさせて不意突出による危険防止を図るなどが実技上の対策となっている。
ガス突出には通常前兆があり、有能で長い経験のある坑内労働者は、いち早く察知して退避する。しかし、なかにはまったく前兆を伴わないものもあり、人的災害を生じている。炭鉱保安学の研究はガス突出の予知と防止に集中しているといっても過言でないほど多くの研究者が努力しているが、未解決の難問の一つとなっている。
[磯部俊郎]
『山田穣著『鉱山保安ハンドブック』(1958・朝倉書店)』
多量のガスが炭壁または岩盤を押し破って炭坑内に一時に強烈に噴き出す現象をいう。ガス突出が起こると,避難のいとまもなく,濃厚なガスのため,またはガスに伴って放出される多量の粉炭などに埋没して窒息したり,突風による機械的衝撃で死傷するものも生ずる。また突出したガスは,風下に流れたり風上に逆流し,もし火源があれば爆発を起こすこともある。突出するガスは,日本ではほとんどメタンガスであるが,南フランスの炭田では二酸化炭素の大突出が起きている。突出するガスとともに噴き出されるものは,主として微粉炭であるが,破砕された岩石片の場合もある。
ガス突出の原因については,ガス圧説,地圧説,両圧説等があり,今なお明確な定説はないが,炭層中に応力集中帯が生じ,炭壁の強さ,地圧,ガス圧等の平衡が発破その他の衝撃によって破られた場合に突然圧力が解放されて起こると考えられている。突出の起こりやすい場所として,断層または褶曲地帯,そのほか地層の膨縮の激しい所,岩石坑道の着炭際,地表からの深度が大きい所,火成岩の貫入により炭層が変質している所等があげられている。予防法としては,ガス抜きによるガス去勢,大口径先進穿孔(せんこう),高圧注水等による地圧解放等の対策がとられている。予知法としては,ガス量の変化,炭質の変化,山鳴り,炭壁の張出し等の前兆の把握,地震計による地層破壊の震源点の判定,AE(acoustic emission)計による岩石破壊音の測定等が行われている。一方,突出によって生ずる災害を防止する対策として,ガス警報器による電源自動遮断,救急バルブ,避難場所の設置等の処置がとられている。
執筆者:大橋 脩作
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…表2に示した石炭鉱山の災害率は10年前の2割に減少しており,同様に減少している金属,石灰石の災害率に近づいている。さらに,表3に示すように,石炭鉱山の災害原因を見ると,頻発災害といわれる取扱い中の器材・鉱物,落盤・側壁の崩壊,運搬関係が大きなウェートを占め,一時に多数の死傷者を生じる大きな災害になりやすいガス・炭塵爆発,ガス突出,山はね,自然発火などの災害を起こしていないのが,災害減少の大きな要因である。分類上では,ガス・炭塵爆発(ガス爆発,粉塵爆発),ガス突出,山はね,自然発火,火災,水害,風害,雪害,震災,または火薬類の紛失・盗難,その他の火薬類についての事故,死者1人以上を生じた災害,同時に休業見込み4週間以上の負傷者を含む罹災者3人以上を生じた災害,同時に罹災者5人以上を生じた災害を重要災害といい,重要災害のうち同時に死亡者3人以上または罹災者5人以上を生じた災害を重大災害という。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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